腎移植レシピエント64名/対照群・腎移植ドナー17名を調査
大阪公立大学は8月31日、腎移植後の骨格筋量の変化はタンパク質摂取量と正の相関関係であることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科泌尿器病態学の香束昌宏研究員、岩井友明講師、内田潤次教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Clinical Nutrition」オンライン速報版に掲載されている。
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慢性腎臓病患者では、腎機能の低下に伴う慢性炎症、代謝亢進、栄養摂取量の減少、身体活動の低下などによって骨格筋量が減少していることが知られている。同研究グループは、腎移植レシピエントにおいて、腎移植後には腎機能が改善することで骨格筋量が増加することを明らかにしてきた。一般に、サルコペニアの改善には栄養療法と運動療法が推奨されているため、腎移植後の骨格筋量の回復にはタンパク質摂取量が関連することが推測される。しかし、これまで腎移植レシピエントで骨格筋量とタンパク質摂取量の関係を調べた報告はほとんどなかった。
研究グループは、腎移植レシピエント64名と、対照群・腎移植ドナー17名を調査した。体内に流した微弱な電流の流れやすさから骨格筋量を推定する生体電気インピーダンス法を用いて、腎移植前、腎移植1か月後、腎移植12か月後の骨格筋量を測定。また、24時間の間に排泄される尿を集め、その尿中に含まれる尿素窒素から推測される1日当たりのタンパク質摂取量を計算した。交絡因子の影響を補正するために多変量回帰分析を行って腎移植12か月後の骨格筋量の変化とタンパク質摂取量との関連について調べた。
十分なタンパク質摂取で腎移植後の骨格筋量を維持できる可能性
その結果、腎移植レシピエントの骨格筋量は、腎移植1か月後には一旦減少するものの、腎移植12か月後には腎移植前より増加。また、多変量解析を行った結果、腎移植レシピエントの骨格筋量の変化は、タンパク質摂取量と独立して関連していることがわかった(p=0.015)。この解析モデルを用いた予測値によると、タンパク質摂取量が0.72g/kg標準体重/日未満の腎移植レシピエントは、腎移植12か月後には骨格筋量が減少することがわかった。
今回の研究結果により、腎移植レシピエントにおいて、十分なタンパク質を摂取することにより、腎移植後の骨格筋量を維持することができる可能性が示された。骨格筋量の維持により、サルコペニアの発症防止や生命予後の改善に繫がることが期待される。
今後、腎機能低下を防ぎ、サルコペニア予防に適したタンパク質摂取量を明らかに
これまで、慢性腎臓病患者には過剰なタンパク質摂取が腎機能を悪化させるため、タンパク質制限することで腎機能を保護するという考えが一般的だった。しかし、最近、サルコペニアが生命予後の悪化につながるということが明らかになり、サルコペニア対策の観点からは、厳しいタンパク質制限の弊害も指摘されている。
今回の研究では、高タンパク質摂取による腎機能に及ぼす影響については調べていない。今後、腎移植レシピエントの生命予後を改善するために、腎機能の低下を防ぎ、かつ、サルコペニアを予防するのに適したタンパク質摂取量を明らかにするなど、さらなる研究が必要となる、と研究グループは述べている。
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