医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 妊婦の血中水銀/セレン濃度と、4歳までの子の神経発達との関連を国内調査-北大ほか

妊婦の血中水銀/セレン濃度と、4歳までの子の神経発達との関連を国内調査-北大ほか

読了時間:約 3分9秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年08月31日 AM11:15

妊娠中のメチル水銀やセレンばく露が子の神経発達の遅れに影響する可能性、海外報告

北海道大学は8月30日、子どもの健康と環境に関する全国調査()の全国データを用いて、妊婦の血中水銀およびセレン濃度と4歳までの子どもの神経発達との関連を調べ、その結果を発表した。この研究は、同大の小林澄貴特任准教授(エコチル調査北海道ユニットセンター)と旭川医科大学、日本赤十字北海道看護大学、、名古屋市立大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Environment International」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

幼児期の神経発達の遅れは、学童期以降に神経発達の疾患になりやすくなる可能性があることが指摘されている。子どもの神経発達の遅れにはさまざまな要因があると考えられているが、これまでに、海外の研究グループによる疫学研究では、妊娠中のメチル水銀やセレンばく露が子どもの神経発達の遅れに影響する可能性が指摘されている。

日本からの研究報告は限定的

日本では、メチル水銀の主要ばく露源は魚介類であるといわれている(多く蓄積している魚種と少ない魚種がある)。セレンは人にとって必須微量元素であり、主な摂取源は魚貝類、米類、野菜類、および卵類であり、日本人の1日当たりの平均摂取量は約100μgと報告されている。これまでに、動物実験からセレンは抗酸化作用が示唆されている。また、セレンはその他の金属と相互に作用し、水銀の毒性を軽減させることも報告されている。

海外では研究報告数が多いにもかかわらず、日本における妊婦の水銀とセレンが子どもの神経発達に及ぼす影響の研究報告数はあるものの現在限られており、妊婦の水銀およびセレンばく露と子どもの神経発達との関連はよくわかっていない。研究グループは、妊婦の血中水銀およびセレン濃度が、4歳までの子どもの神経発達に影響しているのではないかと考え、これらの関連を検討した。

約5万人対象、妊娠中の血中水銀/セレン濃度、子の神経発達との関連を調査

研究グループは、エコチル調査参加者約10万人のデータを使用。このうち、妊婦の血中水銀およびセレン濃度のデータおよび4歳までの子どもの神経発達のデータが全てそろった5万323人の妊婦のうち、関連因子と考えたものに何らかの欠測データがある人を除いた4万8,481人のデータを解析対象とした。

神経発達のデータを得るために用いたのは、子どもの神経発達に関する質問票(英語版:Ages and Stages Questionnaire第3版()を出版社の許可のもと、日本語に翻訳したもの)。これは、発達の指標を測定する質問票であり、保護者が子どもを観察し、各神経発達の段階ができるかどうかの質問に対する回答を記載するものだ。ASQ-3の結果は5つの領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決能力、個人・社会)と全体でスコア化され、得点が算出される。

妊婦の血中水銀およびセレン濃度に加え、4歳までの子どもの神経発達との関連因子として考えられている出産歴、妊娠中の喫煙習慣、子どもの性別、子どもの身体的異常の有無、出産後1か月時の産後うつ症状の有無、そして妊娠中のn-3系不飽和脂肪酸の摂取状況を考慮した研究デザインを用い、血中水銀およびセレン濃度(水銀とセレン濃度は対数変換したもの、またはそれぞれ四分位で4分割したもの)と4歳までの子どもの神経発達との関連について一般化推定方程式を使って検討した。

血中セレン濃度は関連したが子の健康に影響するほどではなく、水銀は神経発達と関連なし

母体血中セレン濃度が最も低い集団と比較して、母体血中セレン濃度が2番目に高い(やや高い)集団では4歳までの問題解決能力の遅れが見られた子どもが1.08倍だった。また母体血中セレン濃度が最も高い集団では粗大運動の遅れが見られた子どもが1.10倍、微細運動の遅れが見られた子どもが1.13倍だった。そして問題解決能力の遅れが見られた子どもが1.10倍という結果だった。観察された人数の増加は小さいものと考えられ、現時点では生まれた子どもの4歳までの健康状態に影響するほどではなかった。

一方、血中水銀濃度と4歳までの子どもの神経発達について関連はなく、臍帯血中セレン濃度と4歳までの子どもの神経発達についても関連はなかった。

妊婦の血中水銀およびセレン以外の環境要因、遺伝要因、および社会経済要因も調査中

日本で妊婦の血中水銀およびセレン濃度と4歳までの子どもの神経発達との関連を調べた今回の研究において考慮するべき点は、子どもの神経発達の評価が医療従事者の客観的な診断データではないことが挙げられる。しかし、ASQ-3はすでに妥当性が確認されている。「エコチル調査では、妊婦の血中水銀およびセレン以外の環境要因、遺伝要因、および社会経済要因も調べている。引き続き、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかになることが期待される」と、研究グループは述べている。

なお、研究に示された見解はすべて著者の意見であり、環境省および国立環境研究所の見解ではないとしている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 前立腺がん、治療決定時SDMが患者の治療後「後悔」低減に関連-北大
  • 糖尿病管理に有効な「唾液グリコアルブミン検査法」を確立-東大病院ほか
  • 3年後の牛乳アレルギー耐性獲得率を予測するモデルを開発-成育医療センター
  • 小児急性リンパ性白血病の標準治療確立、臨床試験で最高水準の生存率-東大ほか
  • HPSの人はストレスを感じやすいが、周囲と「協調」して仕事ができると判明-阪大