採血場面での声、体の動き、細かい表情の変化など、痛みの反応を臨場感のある高画質動画で
広島大学は8月25日、開発したeラーニングの学習効果を明らかにするために、新生児集中ケア認定看護師64人を無作為に介入群と対照群に割付け、学習効果を検証した結果を発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科の小澤未緒准教授らの新生児の痛み研究グループによるもの。研究成果は、「Pain Management Nursing」に掲載されている。
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痛みを言葉で表現できない新生児の痛みの予防や緩和を適切に実施するためには他者による適切な痛みの評価が必要だ。しかし、日本のNeonatal IntensiveCare Unit:NICUでは新生児の痛みの測定ツールのトレーニングプログラムがないため、ツールを導入しない、使用しているツールで正しく痛みを測定できているかを確認する手段がない、などの課題がある。
そこで、研究グループはNICU看護師を対象とした新生児の痛みの測定やアセスメントの自己学習を支援するeラーニングを開発し、既存の教材による自己学習方法と比較して、看護師の新生児の痛みの測定・アセスメントに関する知識や技術の習得に有用であるかを検証した。
開発したeラーニングは、書籍では学習が難しい、実際の採血場面における新生児の声や体の動き、表情の変化、細かい顔のしわといった痛みの反応を臨場感のある高画質動画により学習できるよう工夫したという。受講期間内であればいつでもアクセスでき、受講者は知識の習得、測定の練習、フィードバックの3つの学習ステップを踏むことができ、パワーポイント資料と動画コンテンツで知識の習得を、NICUに入院している新生児の実際の足底採血場面の動画によって、痛みの測定ツールのスコアリングをトレーニングできる。
新生児集中ケア認定看護師64人対象に、学習効果を検証
今回の研究では、新生児の痛みのケアを専門とする看護学者が研究責任者となり、学習内容の妥当性や信頼性について、実際に利用する看護師を対象としたユーザビリティテスト後に、開発したeラーニングの学習効果について2段階評価を実施した。第1段階は、あらゆる経験年数の看護師を対象とした前後比較によるパイロットテストにより学習効果が得られることを確認した。第2段階の評価では、新生児の痛みのケアの実務経験が豊富なエキスパート看護師を研究対象者として介入群と対照群に無作為に分けるランダム化比較試験を実施した。
同研究の対象者は、新生児医療の現場で卓越した知識と技術を持っていると考えられる新生児集中ケア認定看護師64人で、介入群の対象者は受講前にテストを受け、eラーニングで4週間学習し、受講後にもテストを受けた。対照群の対象者も同様に学習前後のテストを受け、4週間の学習期間は既存の教材での自己学習をした。テストは40項目(知識20項目;測定20項目)で構成し各1点の40点満点とした。
介入群は対照群よりも総得点が6.22点高く、有用性明らかに
その結果、解析対象は、学習後のテストまで受けた43人(介入群21人;対照群22人)で両群の学習前後のテスト得点の差は、介入群は対照群よりも総得点が6.22点高いという結果が得られた。
以上の結果より、同研究で開発したeラーニングについて、新生児医療の現場で働く看護師での学習効果は高く、看護師が新生児の痛みや痛みの測定を自己学習する教材として有用であることが明らかとなった。
臨床現場での効果を明らかにすることを目指した多施設共同研究も
現在、広島大学病院を含む全国15施設のNICUで、開発したeラーニングを看護教育計画の教材として導入し、病棟に所属する看護師が共通の教材を受講することで実際に痛みの測定ツールを使用した頻度が上昇するのか、新生児の痛みが緩和するかなど臨床の現場での効果を明らかにすることを目指した多施設共同研究を実施している。
また、コロナ禍に病棟でのNICU看護実習が不可能となった大学等の看護基礎教育機関から、本教材の利用希望があり看護学生への教材としても有用である可能性が示唆されている、と研究グループは述べている。
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・広島大学 プレスリリース