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関節リウマチなどで「悪玉タイプの線維芽細胞」をつくる遺伝子ETS1を同定-東大ほか

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2022年08月26日 AM11:36

関節リウマチ・腸炎・がんなどの病態形成を担う炎症型/組織破壊型などの線維芽細胞、生じる機序は不明だった

東京大学は8月25日、滑膜線維芽細胞においてRANKLや軟骨を破壊するタンパク質の発現を誘導する主要な遺伝子としてETS1を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科 病因・病理学専攻 免疫学講座の高柳広教授、小松紀子助教、塚崎雅之特任助教、日本学術振興会のYan Minglu外国人特別研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Immunology」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

線維芽細胞は最も豊富に存在する「体の構造を支持する細胞」であり、組織の恒常性を保つ役割を果たす細胞だ。近年の解析技術の進展により、病気の組織には炎症型や組織破壊型などのさまざまな機能を有する線維芽細胞が存在し、関節リウマチや腸炎、がんなどをはじめとする病態の形成を担うことが明らかになりつつある。

一方、関節リウマチでは、関節腔を包む滑膜に滑膜線維芽細胞や免疫細胞が集積し、増殖や活性化することで炎症の場を形成する。滑膜線維芽細胞は関節の滑膜に特異的に存在する線維芽細胞であり、研究グループはこれまでに、滑膜線維芽細胞が主要なRANKL発現細胞として、骨破壊に重要な役割を果たすことを見出している。

近年、滑膜線維芽細胞には、炎症を誘導する「炎症誘導型」と骨破壊を誘導する「組織破壊型」が存在することが明らかにされ注目を集めているが、どのような分子メカニズムで生じるのかは不明だった。また、RANKLの働きを抑制する「抗RANKL抗体」は、関節リウマチの骨破壊を抑制する薬剤として日本で適用されているが、軟骨破壊を抑制することはできないという問題点があった。健常人においても、常に骨破壊と骨形成が起きて骨の新陳代謝がなされることを鑑みて、関節リウマチの病的な骨破壊と軟骨破壊を同時に抑制する画期的な薬剤の開発が求められていた。

E3欠損マウスの滑膜線維芽細胞、RANKLの発現と関節炎の骨破壊を抑制

研究グループは今回、滑膜線維芽細胞がRANKLを発現する仕組みに着目し、関節リウマチ患者の滑膜線維芽細胞のエピゲノム解析により、RANKL発現に関わる可能性のある遺伝子発現制御領域を複数同定した。これらの遺伝子領域を欠損させたマウスを複数作製し、特定の遺伝子領域(E3)を欠損させたマウスから単離した滑膜線維芽細胞ではRANKLの発現が抑制されること、E3欠損マウスに関節炎を誘導すると骨破壊が抑制されることを見出した。

E3に結合する転写因子「」を同定、ETS1が組織を破壊する滑膜線維芽細胞形成の鍵だった

さらに、E3に結合する転写因子としてETS1を同定し、遺伝子発現解析によりETS1がE3に結合して、RANKLだけでなく軟骨破壊を引き起こす細胞外基質分解酵素の発現も誘導することを明らかにした。

滑膜線維芽細胞が発現するETS1の関節リウマチにおける役割を明らかにするため、滑膜線維芽細胞特異的にETS1を欠損させたマウスを新たに作製し関節炎を誘導すると、炎症には影響がない一方で、骨と軟骨の破壊が抑制されることが判明した。以上の結果から、関節リウマチにおいては、ETS1が骨や軟骨を破壊する滑膜線維芽細胞を形成する鍵となる遺伝子であることが明らかになった。

ETS1発現は病態局所で制御、組織破壊型の線維芽細胞形成を介して多様な疾患を惹起

組織破壊型の線維芽細胞は関節リウマチだけでなく、腸炎やがんなど、さまざまな病態においても存在し、病態形成に重要であることが知られている。シングルセル解析の結果、ETS1は腸炎やがんにおいて組織破壊やリモデリングに関わる線維芽細胞のサブセットに高く発現する一方、炎症を誘導するサブセットには認められないことが判明した。

線維芽細胞特異的にETS1を欠損させたマウスに腸炎を誘導すると、炎症には影響がないものの、粘膜下層や筋層の組織修復に異常が認められたことから、ETS1を発現する線維芽細胞は組織の再構築や修復に寄与することがわかった。またエピゲノム解析により、ETS1の発現は炎症性サイトカインであるTNFや低酸素環境下で誘導される因子により誘導されることが判明した。このことから、ETS1の発現は病態において局所的に制御されており、組織破壊性の線維芽細胞の形成を介して、さまざまな疾患の病態を引き起こすことが示唆された。

組織破壊型の線維芽細胞に基づく病態理解と新規治療法開発への貢献に期待

今回の研究により、関節リウマチにおいて骨・軟骨の破壊を誘導する滑膜線維芽細胞の病原性や運命を司る重要な転写因子としてETS1を同定し、組織破壊型の線維芽細胞がつくられる分子メカニズムが初めて明らかにされた。

滑膜線維芽細胞のETS1の発現や活性を抑制することで、滑膜線維芽細胞を標的とした関節リウマチの骨と軟骨破壊を同時に抑制する新しい治療法の開発につながるものと期待される。さらに、ETS1は関節リウマチだけでなく、腸炎やがんなど、さまざま病態における組織破壊性の線維芽細胞に高く発現しており、組織破壊型の線維芽細胞サブセットの病原性の発揮や運命決定がETS1を基軸とした遺伝子発現制御によって担われることが示唆された。本研究は組織破壊型の線維芽細胞に基づく病態の理解と新しい治療法の開発に大きく貢献するものと期待される、と研究グループは述べている。(QLifePro編集部)

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