霊長類における「嗅球からのαシヌクレイン伝播」をマーモセットで解析
京都大学は8月23日、「αシヌクレイン」の凝集体(フィブリル)を霊長類の一種であるマーモセットの嗅球へ投与する実験により、パーキンソン病などを含むレヴィ小体病における嗅覚系伝播経路と認知機能障害の関連性について明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部附属病院の澤村正典特定病院助教、同院脳機能総合研究センターの尾上浩隆特定教授、同大大学院医学研究科の山門穂高特定准教授、上村紀仁特定助教、伊佐正教授、高橋良輔教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Movement Disorders」オンライン版に掲載されている。
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パーキンソン病は、動作が緩慢になるなどの運動機能障害を主徴とする進行性の神経変性疾患で、進行期になると高確率に認知症を合併する。パーキンソン病の類縁疾患としてレヴィ小体型認知症という病気も知られており、これらはまとめて「レヴィ小体病」とも呼ばれる。現代においては、高齢化に伴い認知症は大きな社会問題となっており、介護者を筆頭に、社会的・経済的にも大きな負担となっている。
昨今、レヴィ小体病は、原因であるαシヌクレインというタンパク質の凝集物が脳内で神経細胞から神経細胞へと伝播するという現象が注目されている。患者の脳の剖検解析の結果から、レヴィ小体病では嗅球や下部脳幹から、それぞれ特定の経路に沿ってαシヌクレインの伝播が生じると考えられている。これまで、マウスなどのげっ歯類にαシヌクレインの凝集体(フィブリル)を脳内へ投与することで、パーキンソン病のモデルとなることが報告されてきた。しかし、霊長類での報告は限られており、特に霊長類の嗅球からの伝播経路については報告がなかった。そこで研究グループは今回、マーモセットの嗅球へαシヌクレインの凝集体を投与し、嗅球からのαシヌクレインの伝播を再現することを目的として研究を行った。
αシヌクレイン凝集体投与で嗅球が萎縮、パーキンソン病やレヴィ小体病に類似の異常が出現
まず、人工的に作成したαシヌクレインフィブリルを4頭のマーモセットの片方の嗅球に投与。投与されたαシヌクレインの凝集体は嗅球の神経細胞へ取り込まれ、異常なαシヌクレインの凝集を生じ、神経細胞から神経細胞へと伝播する。
3か月後のマーモセットでMRIを撮影すると、αシヌクレインの凝集体を投与した嗅球が萎縮していることがわかった。さらに3か月、6か月後に1頭ずつのマーモセットで18F-FDG-PETを行い、脳機能の評価を行うと、αシヌクレインフィブリルを投与側では、広範囲に糖代謝が低下していることが判明した。特に、視覚に関連した部位での低下も認め、これは認知症を伴うパーキンソン病やレヴィ小体型認知症で認める異常と類似したものだったという。
霊長類レヴィ小体病モデルでαシヌクレインの嗅覚系伝播経路と認知機能障害の関連性確認に成功
これらのマーモセット脳内では、嗅覚系経路に沿って次々と伝播し、異常なαシヌクレインである「リン酸化αシヌクレイン」が出現することが明らかとなった。
さらに、この新しいレヴィ小体病のマーモセットモデルを調べることで、αシヌクレインの嗅覚系伝播経路と認知機能障害の関連性を示すことに成功。これは、パーキンソン病では嗅覚障害と認知機能障害の関連性が報告されていることを裏付けるものだったという。
パーキンソン病やレヴィ小体型認知症の早期診断や認知機能の治療開発目指す
今回、レヴィ小体病におけるαシヌクレインの嗅覚系伝播経路について、霊長類を用いて解析することに成功した。今後はこのレヴィ小体病の霊長類モデルを使用し、パーキンソン病やレヴィ小体型認知症の早期診断や認知機能障害の治療につなげていきたいと考えている、と研究グループは述べている。
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