脂質性プラークとステント再狭窄や将来の心血管イベント発症との関係を解析
国立循環器病研究センターは8月19日、新世代薬剤溶出性ステント下の脂質性プラークは、必ずしも将来の心血管イベント発症リスク増加に寄与しないことを報告したと発表した。この研究は、同センター心臓血管内科の邑井洸太医員、片岡有医長、野口暉夫副院長と、熊本大学大学院生命科学研究部の辻田賢一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Canadian Journal of Cardiology」オンライン版に掲載されている。
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新世代薬剤溶出性ステントは、狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患に対するカテーテル治療で使用される主要な器具だ。薬剤溶出性ステントは、ステント表面に塗布されている薬剤が徐々に血管に溶け出すことで、再狭窄を防ぐ。現在では、薬剤や構造が改良された新世代型が主に使用されている。新世代型は従来使用されてきたステントに比して再狭窄率が低下したが、依然として年間約5~10%の頻度でステント内再狭窄が発生し、再治療を要する。
ステント内再狭窄の原因として、冠動脈病理組織を用いた解析では、2000年代初頭に使用された古い世代のステント(第1世代薬剤溶出性ステント)留置下に存在する脂質性プラークがステント内再狭窄に関与することが報告された。一方、これまで新世代薬剤溶出性ステントの再狭窄におけるステント下に存在する脂質性プラークの意義について解析は行われていなかった。脂質性プラークは中心に脆弱な脂質成分を含有するプラークであり、心筋梗塞の原因となる。
研究グループは先行研究により、冠動脈内の脂質性プラークを描出する血管内イメージング装置(近赤外線スペクトロスコピー)を用いて、研究成果を報告してきた。今回の研究では同装置を応用して、新世代薬剤溶出性ステント下の脂質性プラークとステント再狭窄や将来の心血管イベント発症との関係を解析した。
同研究では、国立循環器病研究センターならびに宮崎市郡医師会病院に入院し、新世代薬剤溶出性ステント留置術を施された冠動脈疾患患者416例(445冠動脈病変)を解析。冠動脈プラーク内の組織成分を描出し、脂質成分の同定・定量に有効な近赤外線スペクトロスコピーを用いて、留置されたステント下に存在する脂質性プラーク指数を測定した。さらに、ステント留置後3年間におけるステント留置部位で起こった心血管イベント(心血管死亡+治療病変における心筋梗塞+治療病変の再血行再建)、ならびに個々の症例における心血管イベント(全死亡+全心筋梗塞+全血行再建)の発生率を解析した。
ステント留置から3年間、必ずしも心血管イベント発症リスクを高めるものではない
解析した445冠動脈病変を、脂質性プラーク指数に基づき3群に分類。ステント留置部位に起因する心血管イベント発生率を比較した結果、有意差は認めなかった。個々の症例における心血管イベント発生率についても、3群間において同等の発生率だった。年齢、性別、急性冠症候群/慢性冠動脈疾患、糖尿病の有無、慢性腎臓病の有無それぞれのサブグループも解析したところ、脂質性プラーク指数と心血管イベント発生率の間には有意な関連は認めなかった。
以上の研究結果から、留置された新世代薬剤溶出性ステント下に存在する脂質性プラークは、ステント留置から3年間の観察期間において、必ずしも心血管イベント発症リスクを高めるものではないことが示唆された。
ステント内再狭窄起因の心血管イベント、発症の有効な予測法や予防法確立を目指す
今回の研究では、ステント下の脂質性プラークによる心血管イベント発症リスクの増加は認めなかった。新世代薬剤溶出性ステントは、従来のステントに比して優れた抗動脈硬化作用や抗血栓性を有していると報告されている。このような作用は、脂質性プラークが将来の心血管イベント発生に及ぼす影響を減弱させた可能性が推察される。
同研究成果から、新世代薬剤溶出性ステント留置後の心血管イベント発生予測のために、別の要因を探る必要性を考え、研究グループは近赤外線スペクトロスコピーを用いた臨床研究を2018年11月より実施中だ(SERIAL研究)。今後、ステント内再狭窄に起因する心血管イベント発症の有効な予測法や予防法の確立を目指し研究を進めていく予定だとしている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース