30~79歳の都市部一般住民約6,000人対象に
国立循環器病研究センターは8月17日、都市部地域住民を対象とした「吹田研究」を用い、肝酵素およびアルコール摂取量と糖尿病発症リスクとの関連について検討し、その結果を発表した。この研究は、同センター健診部の小久保喜弘特任部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Acta Diabetologica」に掲載されている。
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近年、食習慣の乱れや運動不足等の生活習慣の変化に伴い、糖尿病患者数は増加している。令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、「糖尿病が強く疑われる人」の割合は、男性19.7%、女性10.8%だった。日本の糖尿病の大部分は2型糖尿病であり、放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こして、心筋梗塞や脳卒中などの循環器疾患や認知症、一部のがんの発症リスクを高める。そのため、特定健診・特定保健指導における糖尿病罹患を予防するための取り組みが重要と考えられる。
吹田研究は、1989年から同センターが実施しているコホート研究で、性年代階層別に無作為に抽出した大阪府吹田市民を対象としている。今回の調査では、同研究の参加者である30~79歳の都市部一般住民のうち、ベースライン調査時に循環器疾患と糖尿病の既往者を除外した5,972人(男性2,735人、女性3,237人)を対象とした。
糖尿病罹患のハザード比、γ-GTP高値群1.98、ALT高値群2.02、AST高値群1.47
糖尿病の新規発症を13年間追跡した結果、597人の糖尿病発症を認めた。肝臓酵素のγ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノ基転移酵素)、AST(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)の低値群と比べて、高値群の糖尿病罹患の調整ハザード比(95%信頼区間)はそれぞれ、1.98(1.44–2.72)、2.02(1.48–2.74)、1.47(1.12–1.95)だった。
適正飲酒者は糖尿病罹患リスクが低く、肝酵素高値でもリスク上昇を認めず
非飲酒者・過去飲酒者と比べて、現在飲酒者の糖尿病罹患の相対危険度も解析した。適正飲酒者 (アルコール摂取量1日あたり男性23.0グラム以下、女性11.5グラム以下)、中度飲酒者(男性23.0~45.9グラム、女性11.5~22.9 グラム)、過剰飲酒者(男性46.0グラム以上、女性23.0グラム以上)における糖尿病罹患の調整ハザード比(95%信頼区間)はそれぞれ、0.61(0.43-0.86)、0.80(0.63-1.03)、0.97(0.68-1.39)だった。
また、「非飲酒者と過去飲酒者の肝臓酵素の低値群」と比べて、「非飲酒者と過去飲酒者の肝臓酵素の高値群」「中度飲酒者の肝臓酵素の高値群」「過剰飲酒者の肝臓酵素の高値群」の糖尿病罹患リスクは高く見られたが、「適正飲酒者の肝臓酵素の高値群」は有意な上昇を認めなかった。
研究成果は、肝臓酵素の測定値から保健指導する際のアルコール摂取量指導の根拠に
現在、日本の特定健診・特定保健指導において、飲酒習慣調査(生活習慣調査)と肝臓酵素の測定が実施されている。適量なアルコール摂取はインスリンの感受性を高めて、インスリン抵抗性を弱めることが報告されている。しかし、アルコールの過剰摂取は、肝臓に蓄積した脂肪への影響、すい臓からのインスリン分泌を抑える影響から、糖尿病罹患リスクが上昇すると考えられる。また、飲み過ぎに伴う食べ過ぎによって、血糖値を上げることも原因と考えられる。
肝臓酵素と糖尿病罹患リスクとの関連はすでに多く報告されており、その関連は飲酒量により違う可能性が「The Kansai Healthcare Study」で報告されていた。しかし同Studyは追跡時間4年で、研究対象者は男性のみであり、その研究結果の妥当性を検証する必要があった。今回の研究では、飲酒習慣と肝臓酵素と糖尿病の新規罹患を13年間追跡し、それらの関連を都市部の一般住民において明らかにした。
「肝臓酵素のγ-GTP、ALT、ASTの測定は糖尿病予防に意義があることを示した。さらに、適量のアルコール摂取者では糖尿病罹患リスクが低いことから、過剰飲酒の人に適量のアルコール摂取を指導するためのエビデンスを示すことが可能になる。これらから、特定健診・特定保健指導の現場で、肝臓酵素の測定値から保健指導する時には、アルコール摂取量も参考にする必要性が示唆される」と、研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース