褐色脂肪組織の活性化による根治的肥満治療薬開発を目指しTFAM高発現マウスを解析
九州大学は8月18日、脂肪を燃焼して熱を産生する褐色脂肪細胞を活性化させるメカニズムの研究に取り組み、活性化を促進する因子を褐色脂肪細胞自身で分泌し利用することで、持続的に脂肪燃焼を可能とする新たな仕組みを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院臨床検査医学の藤井雅一非常勤講師、病院検査部の瀬戸山大樹助教、康東天名誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
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糖尿病・心筋梗塞・脳梗塞等の原因となる肥満は、現在減量以外に根本的な治療法がない。リモートワークが普及している現代では、変化するライフスタイルによって日常生活の活動量は減少し、肥満症が増加していくことが強く懸念されている。そのため、根本的な肥満解消を目指す新しい治療法の開発が望まれる。
褐色脂肪組織は新生児の体温を維持すために機能し、成人には存在しないと考えられていたが、2009年、PET-CTを用いて成人における存在が明らかにされた。それ以降、褐色脂肪組織の活性化に焦点をあてた研究が多く試みられている。カプサイシン、過活動膀胱の治療薬など既存の物質での活性化実績はあるもののそれらの副作用が問題となり、現時点で肥満治療薬として実用化にはいたっていない。したがって、安全性および有効性が担保される肥満治療薬の開発が求められている。
同研究室では、ミトコンドリアに存在するタンパク質TFAM(ミトコンドリア転写因子A)高発現(TgTg)マウスに着目。同マウスで著明に活性化している褐色脂肪組織の活性化メカニズムの詳細を検討し、根治的肥満治療薬開発への応用を目指して研究を進めてきた。
TgTgマウス褐色脂肪細胞をWTマウスに移植、高脂肪食摂取による体重増加抑制
今回の研究により、強力な抗肥満効果を示すTgTgマウスの褐色脂肪組織では、野生型(WT)マウスと比較してミトコンドリア機能が亢進しており、それに伴い褐色脂肪細胞活性化に必要なタンパク質発現が上昇していることがわかった。次にTgTgマウス由来の褐色脂肪細胞自体が抗肥満効果に影響を及ぼしていることを確認するため、TgTgマウス褐色脂肪細胞を抽出・培養し、WTマウスの褐色脂肪組織付近の皮下に移植したところ、高脂肪食摂食下においても体重増加抑制が認められた。
ミトコンドリア機能亢進の褐色脂肪細胞<エクソソーム過剰分泌<周囲の細胞も活性化
そこで、TgTg由来とWT由来の褐色脂肪細胞に培養液を交通させて共培養を行ったところ、WT由来細胞においても褐色脂肪細胞が活性化していた。TgTg由来褐色脂肪細胞では、ミトコンドリア機能の亢進によりエクソソームの細胞外への分泌が著明に増加していることが確認された。したがって、この過剰分泌されたエクソソームがWT由来の細胞に培養液を通じて到達し、活性化に寄与しているという新しい褐色脂肪細胞活性化のメカニズムが明らかになったとしている。
エクソソームやその分泌機構を標的とした根治的肥満治療法の開発へ期待
今回の検討により、生体内に生理的に存在するエクソソームによる褐色脂肪細胞活性化メカニズムが解明されたことで、肥満治療に求められる安全性・有効性という重要な条件を満たす新たな治療戦略が示された。今後、エクソソームをはじめとする細胞外小胞の分泌促進に寄与するミトコンドリア活性化剤や安定的なエクソソーム回収法の確立等により、根治的肥満治療法の開発へ大きく貢献するものと考えられる、と研究グループは述べている。
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