「政策単位間での自殺の地域格差の見え方の違い」に着目した報告は存在しなかった
九州大学は8月18日、自殺対策の基礎資料となる自殺の地域格差を可視化したと発表した。この研究は、香田将英講師(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター 健康科学部門)、近藤克則教授(千葉大学 予防医学センター/国立長寿医療研究センター 老年学評価研究部長)、高橋聡外来研究員(国立長寿医療研究センター)、尾島俊之教授(浜松医科大学)、篠崎智大講師(東京理科大学)、市川学准教授(芝浦工業大学)、原田奈穂子教授(岡山大学)、石田康教授(宮崎大学)の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS Global Public Health」に掲載されている。
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日本はG7先進国の中で最も自殺死亡率が高く、自殺対策は重要な政策課題の一つとなっている。2006年に「自殺対策基本法」が制定され、社会全体で自殺対策が総合的に推進されてきた。2016年には自殺対策基本法の一部改正により、全ての都道府県および市町村が自殺対策計画を策定することが義務づけられ、厚生労働省の地域自殺対策計画策定のガイドラインには、市町村と都道府県による連携の必要性が明記され、それぞれが強力に、かつ互いに連携して総合的に自殺対策を推進するよう求められている。2017年の第3次自殺総合大綱では「地域自殺実態プロファイル」がそれぞれの自治体に配布されるようになり、計画策定の基礎資料となっている。こうした取り組みもあり、日本の自殺者数は1998~2011年まで3万人を上回っていたが、2021年は年間2万1,007人と、2万人前半まで緩やかに減少している。しかし、国際的には依然として日本の自殺死亡者は多く、さらなる対策が求められている。
これまで、「政策単位間での自殺の地域格差の見え方の違い」に着目した報告は存在しなかった。しかし、同一の都道府県でも、隣り合う市区町村のそれぞれで課題が異なる可能性がある。そこで研究グループは今回、どの地域に着目し、有機的かつ効果的に連携すれば良いかを明らかにすべく、政策単位間の自殺の地域格差を分析した。
「指標」を作成し、「2変量マップ」を色分けすることで、自殺の地域格差を可視化
研究ではまず、「指標」を作成。一般に、市町村で自殺死亡の高低を見る際は、自殺死亡率や標準化死亡比(standardized mortality ratio: SMR)という指標が用いられるが、人工規模の小さい地域では変動が大きくなってしまうことが知られている。同研究では、階層ベイズモデルという統計手法で、2009〜2018年の自殺統計資料から人口の影響を少なくしたSMRを算出し、自殺の高低の指標とした。資料は警察庁が集計し、厚生労働省が公開している「自殺の統計」から居住地データを使用。2018年時点の47都道府県、335二次医療圏、1,896市区町村を対象とした。また、対象期間中に政令指定都市になった岡山市、相模原市、熊本市は、それぞれ1市(1,887市区町村で計算)とした。
次に、「2変量マップ」を作成した。それぞれの政策単位間での見え方を比較するため、2つの政策単位を1つの地図に可視化。SMRを3分位に分け、組み合わせを9パターンに塗り分けた。この方法で政策単位間の自殺の地域格差を検討したのは、同研究が初となる。
自治体固有の自殺対策がうまく行っている可能性のある地域も判明
研究の結果、都道府県、市区町村ともにSMRが高い紺色の地域は185か所、ともにSMRが低い灰色の地域は220か所あることが判明。「都道府県全体ではSMRが高いが、市区町村でSMRが低い」青色の地域は26か所、「都道府県全体ではSMRが低いが市区町村でSMRが高い」赤色の地域は40か所確認された。同様に、男女別および、都道府県と二次医療圏、二次医療圏と市区町村でも分析を行っているという。
青色の地域は「都道府県全体では自殺が多くても、自治体固有の自殺対策がうまく行っている可能性」があるため、この地域に着目することで、自殺予防要因を見出せる可能性がある。一方、赤色の地域は「都道府県単位のみで評価すると見落としかねない自殺の多い地域」と言える。これらのことから、自殺のリスク要因を同定し、圏域を越えた地域との連携協力を含め、都道府県が対策を検討する必要性が示唆された。
自殺の地域格差を把握し、地域の特性に応じた自殺対策の推進が重要
今回の研究で浮き彫りにされた「政策単位間の自殺の地域格差」が、自殺の要因をより詳細に検討するための基礎資料として活用されることが期待される。地域格差を認める地域と隣接する地域は、地理的・社会経済的な背景構造が類似していると考えられ、それぞれの地域を比較・分析することで、その地域の自殺のリスク・保護要因を見出せる可能性がある。
加えて、政策立案者や研究者は、都道府県のみの分析では見落としかねない自殺の多い/少ない地域があることに注意し、都道府県単位で行われた過去の研究も、市区町村や二次医療圏といった、より詳細な地域で分析を検討する必要性のあることが示された。
「本研究成果をもとに地域格差を把握し、市町村は地域の特性に応じた自殺対策を推進することが期待される。都道府県は市区町村・二次医療の双方において特定の行政権があることから、二次医療圏など市町村の圏域を越えた地域との連携協力を発展する役割を果たすことが期待される」と、研究グループは述べている。
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