十分に解明されていないPolyVD合併のFH臨床像、370症例を後ろ向きに解析
国立循環器病研究センターは8月16日、血中リポタンパク質(a)(Lp(a))値の上昇は、家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体患者における動脈硬化性疾患の併発を予測し、Lp(a)が50mg/dl以上の症例は、全身血管のスクリーニングが必要な高リスク群であることを報告したと発表した。この研究は、同センター心臓血管内科の舟橋紗耶華派遣研修生、心臓血管内科部冠疾患科の片岡有医長、野口暉夫副院長、研究所病態ゲノム医学部の堀美香客員研究員、研究所分子病態部の小倉正恒客員研究員、研究責任者・研究所分子病態部の斯波真理子客員研究員ら研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of the American Heart Association」に掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia)ヘテロ接合体(以下、FH)は、顕著な高LDLコレステロール血症を特徴とする常染色体性遺伝子疾患。FHは早発性(男性55歳未満、女性65歳未満)の動脈硬化性心血管疾患を発症するリスクが高く、冠動脈疾患だけでなく脳血管・下肢血管疾患を合併し、複数の血管に広範な動脈硬化性疾患(Polyvascular Disease:PolyVD)を伴うことを研究者グループは2021年に報告している。
一方、PolyVDを合併するFHの臨床像等は十分に解明されていない。研究グループは、PolyVDを合併するFH症例は動脈硬化を引き起こす可能性の高い脂質粒子であるLp(a)値が高値であることを報告している。Lp(a)は、アテローム血栓形成、酸化ストレスや炎症反応等を促進するリポタンパク質であり、心筋梗塞・脳梗塞・下肢血管疾患などの動脈硬化性心血管疾患発症に寄与することが報告されている。そこで今回、FHにおける高Lp(a)血症はPolyVDの合併を予測しうるバイオマーカーの可能性を考え、研究グループは臨床研究を行った。
今回の研究では、国立循環器病研究センターに受診あるいは入院したFH症例において、全身動脈の評価を行った370例のFH症例を後ろ向きに解析。PolyVDは冠動脈疾患、頸動脈狭窄症、下肢動脈疾患のいずれか2つ以上を有するものと定義した。
58歳以上/早発性の冠動脈疾患家族歴/Lp(a)≥50mg/dlのFH、PolyVD合併率33.3%
研究の結果、FH症例の21.9%が何らか1つの動脈硬化性心血管疾患を有しており、2つ以上を有するPolyVDはFH症例の5.7%に認めた。PolyVDを有するFHは、複数の動脈硬化性危険因子を持ち、アキレス腱肥厚および皮膚黄色腫、角膜輪を高頻度に有していた。
さらに、PolyVDを伴うFHは、高頻度に高Lp(a)血症を呈していた。多変量解析では、Lp(a)≧50mg/dl(ハザード比=4.42、95%信頼区間=1.45-13.5、p値=0.009)、年齢、ならびに早発性の冠動脈疾患家族歴がFHにおけるPolyVD合併を予測する独立した因子だった。
特に、年齢58歳以上、早発性の冠動脈疾患家族歴、Lp(a)≥50mg/dlの全ての条件を満たすFH症例は、PolyVDの合併率が33.3%と高率だった(ハザード比=10.3、95%信頼区間=3.12-33.4、p値<0.001)。
Lp(a)介入薬剤による心血管イベント発生抑制効果を検証中、P3試験で
今回の研究結果から、血液中のLp(a)値の上昇は、FHにおけるPolyVDの合併を予測しうることが明らかとなった。特に、Lp(a)値50mg/dl以上のFHは、全身血管のスクリーニングが必要な高リスク群であることが示唆された。
近年、Lp(a)に対する介入薬剤が開発され、Lp(a)低下効果が報告されている。現在、Lp(a)介入薬剤による心血管イベント発生抑制効果を検証する第3相試験が行われており(HORIZON試験)、その結果が待たれる。今後は、PolyVDを有するFHに対する最適な治療アプローチの確立も必要であり、さらなる研究を進めていく予定だと、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース