機械学習により外傷死亡の潜在的リスクを浮き彫りにし治療につなげたい
大阪大学は8月6日、日本外傷データバンク(Japan Trauma Data Bank:JTDB)から機械学習を用いて外傷死亡率の高いフェノタイプを同定する手法を考案し、プロテオーム解析により高死亡率フェノタイプには過剰炎症と凝固障害が関与することを解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の舘野丈太郎特任助教(常勤)、松本寿健特任助教(常勤、救急医学)ら、岡山理科大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Critical Care」オンライン版に掲載されている。
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外傷診療の標準化が進み、治療成績向上のための取り組みが世界的に進められているが、全世界では未だ年間約450万件の外傷関連死が報告されている。外傷において凝固・線溶系、免疫反応の病態生理学的な重要性はよく理解されているが、治療標的としての臨床応用は限定的だ。これは、患者背景や損傷の部位・程度から生じる複雑な病態生理が一つの要因として挙げられる。研究グループは先行研究で、多発外傷において特定の損傷臓器の組み合わせが患者転帰に影響するという報告をしており、これは損傷部位のみならず、外傷患者が有する多種多様なリスク因子を加味することが外傷死亡の潜在的リスクを浮き彫りにする可能性を示唆した。そこで今回、研究グループは、機械学習を用いることにより、潜在的なフェノタイプの解明を試み、さらに、新規治療ターゲットへつなげるため、外傷患者データへの応用に取り組んだ。
8つの外傷フェノタイプを導出、死亡率約50%のものも
今回の研究では、JTDBデータを用いて解析を行い、解析対象者は7万1,038人の鈍的外傷患者だった。外傷診療の初期に判明する情報からシルエット分析によりまず、8つの外傷フェノタイプを導出。そのうち1つのフェノタイプは、死亡率が約50%と突出した死亡率を有していた。
より詳細な特性を評価するため、この高死亡率フェノタイプに対して潜在クラス分析を行い、さらに4つのフェノタイプ(α~δ)に分類。演算量が大きいため、スーパーコンピュータ(OCTOPUS:Osaka university Cybermedia cenTer Over-Petascale Universal Supercomputer)を用いた。それぞれのフェノタイプは、「αは比較的若年者の多発外傷」「βは頭部外傷で体温が低い」「γは高齢者の重症頭部外傷」「δは多発外傷で予測死亡率が実際の死亡率より高いことが特徴的」だった。
高死亡率フェノタイプ、他との比較で「過剰炎症」「凝固障害」を示す
次に、同フェノタイピングを大阪大学高度救命センターへ搬送された90人に適応し、各患者の血清を用いて質量分析(プロテオーム解析)を実施。高死亡率フェノタイプは他のフェノタイプと比較して、急性炎症反応の増強、補体活性化経路の調節異常などの過剰な炎症、凝固および血小板脱顆粒経路の調節低下などの凝固障害を示すことが明らかとなった。
新規外傷治療戦略や治療薬開発のブレークスルーとなる可能性
研究グループは、今回の研究成果には大きく2つの意義があるとしている。第一に、初期の外傷診療データを用いて、死亡率の高い臨床を特定し、早期介入により恩恵を受ける可能性のある集団を特定したことだ。将来的に臨床試験の組み入れ基準に取り入れることで既存の治療戦略の見直しや新規の治療戦略開発に役立つ可能性があるという。
第二に、プロテオーム解析により導出したフェノタイプの分子病態を評価したことで、高死亡率フェノタイプに凝固障害、過剰炎症が関与することが明らかになった。初期の外傷診療データからこれらを特定できることは先制治療の可能性を示唆するものであり、新たな外傷治療戦略や治療薬開発のためのブレークスルーとなる可能性があると考えているとしている。
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・大阪大学大学院医学系研究科 主要研究成果