処方数が増加するSGLT2阻害薬、薬剤間で腎保護作用に差があるのか議論が分かれていた
東京大学医学部附属病院は8月9日、国内の大規模なレセプトデータベースを用いて、新規にSGLT2阻害薬が処方された約1万2,000件の糖尿病症例を解析し、SGLT2阻害薬間で、腎機能の経時的な変化量に有意差がないことを示したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の小室一成教授、金子英弘特任講師、南学正臣教授、康永秀生教授、岡田啓特任助教、鈴木裕太研究員、佐賀大学の野出孝一教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Kidney International (Article in Press)」に掲載されている。
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糖尿病の治療薬として開発されたSGLT2阻害薬は、腎臓にある近位尿細管での糖の再吸収を阻害し、糖を尿から排出することで血糖値を下げる薬剤である。SGLT2阻害薬は、これまでの大規模臨床試験において、(糖尿病の有無に関わらず)慢性腎臓病(CKD)の症例に対して腎保護効果が示されたことから、腎臓病の治療薬としても注目を集めている。臨床現場でのニーズが高まったことから、SGLT2阻害薬の処方数は増加し、国内では2014年以降、6種類のSGLT2阻害薬が保険適用され、糖尿病の治療薬として処方されている。しかし、SGLT2阻害薬の薬剤間で腎保護作用を比較した研究は少なく、SGLT2阻害薬の腎保護作用が、薬剤間で効果に差が生じるのか、それとも共通の効果(クラスエフェクト)を示すのかについては議論が分かれており、臨床におけるエビデンスの蓄積が望まれている。
推算糸球体濾過量の年次変化量、薬剤間において有意な差はなし
今回の研究では、2005年1月から2021年4月までにJMDC Claims Databaseに登録され、登録後、4か月以上が経過してから糖尿病に対してSGLT2阻害薬が処方され、透析治療歴のない1万2,100症例(年齢中央値:53歳、男性:84%、HbA1c中央値:7.5%)を解析対象とした。6種類のSGLT2阻害薬については、エンパグリフロジン2,573症例、ダパグリフロジン2,214症例、カナグリフロジン2,100症例、それ以外のSGLT2阻害薬は5,213症例(イプラグリフロジン2,636症例、トホグリフロジン1,467症例、ルセオグリフロジン1,110症例)に対して処方されていた。
平均観察期間773±477日の間に、年齢や性別、併存疾患やその他の糖尿病治療薬で補正した解析を行い、エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、カナグリフロジン、その他のSGLT2阻害薬の間で、腎機能の指標である推算糸球体濾過量(eGFR)の年次変化量を比較したが、薬剤間において有意な差は認められなかった。この結果は、SGLT2阻害薬の腎保護作用が薬剤間で共通しているクラスエフェクトであることを示唆しているという。
今後の糖尿病、慢性腎臓病、循環器疾患の治療における重要なリアルワールドエビデンス
今回の研究は、糖尿病だけでなく慢性腎臓病や循環器疾患に対する主要な薬剤としてSGLT2阻害薬への期待が高まる中で、SGLT2阻害薬の各薬剤間における腎保護作用が同等である可能性を、大規模なリアルワールドデータで示すことに成功した。「これまでエビデンスの乏しかった臨床の現場、とりわけ腎臓領域に貴重なエビデンスを提供することができたと考えており、本研究が、糖尿病や腎臓病などの疾患をもつ患者のQOL改善、そして健康寿命の延伸に貢献していくものと期待される」と、研究グループは述べている。
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