摂食障害の発症リスクにCNVが関与するかは不明だった
名古屋大学は8月10日、若年女性で有病率が高いことが知られる摂食障害を対象にゲノム解析を実施した結果、ゲノムコピー数変(CNV)が発症リスクに関与することを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科精神疾患病態解明学の尾崎紀夫特任教授、同大医学部附属病院ゲノム医療センターの久島周病院講師、同・化学療法部の今枝美穂病院助教、東尾張病院(名古屋医療センター併任)の田中聡副院長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されている。
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摂食障害は、摂食行動の持続的な障害によって特徴づけられ、身体的健康や心理社会的機能に障害を与える疾患群だ。中でも神経性やせ症は、若年女性の約1%に認められ、体重増加に対する強い恐怖、自分の体に対するイメージ(身体像)の歪み、食事量の制限による著しい低体重を示し、死亡率も高い(10年間で約5%)ことが報告されている。摂食障害の病態は不明であり、効果の高い薬物治療もないのが現状だ。
一方で、これまでの疫学研究から、摂食障害の発症には遺伝要因が強く関与し、他の精神疾患の遺伝要因とも一部オーバーラップする可能性が示唆されてきた。ゲノム変異のサブタイプであるゲノムコピー数変異(CNV)は、自閉スペクトラム症、統合失調症をはじめ、精神疾患の発症に関与することが知られている。摂食障害を対象とした既報のゲノム研究では、患者の一部で、精神疾患のリスクに関連するCNVが見つかっている。しかし、摂食障害とCNVの関連性については、いまだ明確な結論は得られておらず、発症リスクか否かは不明だ。
神経発達症のリスクCNVが摂食障害リスクと有意に関連することを統計解析で確認
研究グループは、摂食障害患者70例と健常者1,036例(研究被験者は全員日本人女性)を対象に、CNVの解析を実施。患者は、神経性やせ症(摂食制限型または過食・排出型)、回避・制限性食物摂取症のいずれかの診断を受け、最低BMIが15以下の重症患者とした。遺伝子解析には、小さいサイズのCNVも検出可能な高解像度アレイCGHを用いた。既報により神経発達症の発症に関与するCNVは知られていることから、今回の研究では、この神経発達症のリスクCNVに着目して調べた。
その結果、摂食障害患者の10%(7/70)、健常者の2.3%(24/1,036)で神経発達症のリスクCNVが見つかり、統計解析から、摂食障害のリスクと有意に関連することを確認した(オッズ比=4.69, P=0.0023)。
神経細胞のシナプス機能の障害が摂食障害の病態に関与する可能性
患者で見つかった変異には、45,X(ターナー症候群)、KATNAL2欠失、DIP2A欠失、PTPRT欠失、RBFOX1欠失、CNTN4欠失、MACROD2欠失、FAM92B欠失が含まれていたという。この中で、PTPRT、DIP2A、RBFOX1、CNTN4は、神経細胞のシナプスで機能することが報告されていた。
シナプス機能障害の関与をさらに検討するため、遺伝子セット解析を行った。その結果、シナプスのシグナル伝達に関連した遺伝子群に患者CNVが有意に多く集積することを見出し(オッズ比=2.55, P=0.0254)、シナプスのシグナル伝達が病態に関与する可能性が示唆された。
摂食障害早期診断法の開発や新規治療薬開発への貢献に期待
今回の研究成果により、神経発達症の発症に関与する既知のリスクCNVが摂食障害の発症にも関与することが示された。さらに摂食障害の病態にシナプス機能の障害が関与することが明らかにされた。一方で、同研究はサンプル数が比較的小さいため(摂食障害患者70例)、さらに大規模な症例を用いたゲノム解析で再現性を確認する必要がある。そのうえで、今後は患者で見出したCNVに基づき、患者由来iPS細胞やモデル動物を用いた解析を行い、シナプス機能障害の観点から摂食障害の病態理解が進むことが期待される。
「これらの研究成果は、摂食障害の早期診断法の開発や新規治療薬の開発に寄与すると期待される」と、研究グループは述べている。
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