日本で承認済の脳保護薬は1剤のみ、より有用な脳保護薬が求められている
群馬大学は8月9日、有機化合物でニトロキシラジカルの1種「TEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl)」が容易に揮発し、速やかに脳内の神経細胞を細胞死から保護することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院保健学研究科検査技術科学、同大学院医学系研究科脳神経外科学を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Biochemistry」に掲載されている。
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鉄依存性の細胞死「フェロトーシス」は2012年に発見された新しい細胞死の機構で、いわゆる酸化ストレスが関与し、細胞膜で脂質過酸化が拡大することで実行される。フェロトーシスは、腎虚血などのさまざまな虚血性疾患への関与がわかってきており、研究グループもフェロトーシスと神経細胞死に同じ阻害薬が効果を示すことを報告している。
一方、虚血性脳卒中においては再開通治療が近年飛躍的に進歩したが、虚血および再灌流による相応の脳組織障害は避けられない。また、活性酸素種による酸化ストレスを低減化する脳保護薬は、2001年に承認された「エダラボン」のみで、より有用な脳保護薬の登場が期待されていた。
フェロトーシス阻害活性をもつ「TEMPO」が、容易に揮発することを発見
研究ではまず、細胞のフェロトーシス誘導実験で阻害効果を発揮する薬剤を探索し、いくつかのラジカル捕捉剤がフェロトーシスによる細胞死を阻害することを発見した。すでにTEMPOにフェロトーシス阻害活性があるという報告はあったが、研究グループは新たに、TEMPOが離れた場所から細胞に作用することを発見した。
さらに、その作用機序を詳しく調べたところ、溶液からTEMPO自体が揮発し、また別の水溶液に溶解することが判明。これまで調べた限り、他の類似化合物やフェロトーシス阻害剤には揮発して細胞に作用するものはないという。
TEMPOを吸入した脳梗塞マウスの脳虚血による酸化ストレスが軽減、神経細胞死も抑制
次に、TEMPOが神経細胞においても同様に作用するかを検証した。まず、培養細胞を使った虚血性神経細胞死の解析を行った結果、揮発したTEMPOが細胞死を阻害することを確認した。さらにマウスを用いて中大脳動脈を閉塞する実験(脳梗塞モデル作成)を行った。比較対象であるエダラボンは静脈投与し、TEMPOは水溶液をマウスのケージ内に静置することで吸入させた。
その結果、揮発TEMPOの吸入環境にあったマウスは、脳虚血で誘導される酸化ストレスが軽減し、神経細胞死が抑制されることが明らかとなった。
エダラボンと比べてより高い保護効果を発揮、新規脳保護療法としての発展に期待
今回行われたマウスの脳梗塞モデル実験で、自然揮発したTEMPOが極めて短時間で脳保護効果を発揮し、承認薬であるエダラボンと比べ、より高い保護効果を示したことから、脳梗塞などの虚血疾患の急性期治療において、TEMPOの吸入投与が新しい組織保護療法となる可能性が示された。今後、新しい脳保護療法として発展することが期待される、と研究グループは述べている。
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