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脳卒中の回復評価法FMA、再検証により評価対象となっている筋活動が判明-NCNPほか

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2022年08月15日 AM10:23

回復に伴う神経活動の変化といった回復メカニズムの面からFMAの妥当性を検証

(NCNP)は8月9日、脳卒中患者の回復度に関する世界的な指標であるFugl-Meyer Assessment(FMA)テストを受けている患者の筋活動の特徴の解析によって、FMAがどのような筋活動の回復を評価しているのかを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、NCNP神経研究所モデル動物開発研究部の関和彦部長と電気通信大学の舩戸徹郎准教授、富山大学の服部憲明教授、東京大学の四津有人准教授、安琪准教授、白藤翔平助教、太田順教授、ウェスタンオンタリオ大学(カナダ)の大屋知徹研究員、森ノ宮病院の神尾昭宏主任、三浦教一科長、宮井一郎院長代理、(米国)のGiovanni Martino研究員、Foundation Santa Lucia(イタリア)のDenise Berger研究員、Yury Ivanenko部長、メッシーナ大学(イタリア)のAndrea d’Avella教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

脳卒中()は脳血管の障害によってまひやそれに伴う動作機能の低下が生じる病気で、日本には現在111万人程度の患者がいるとされている。脳卒中後の運動機能を改善するためにはリハビリテーション(以下、リハビリ)が有効であり、効果的なリハビリを行うためには、患者の現在の運動機能の状況や個々のリハビリを行った後の回復状況などを適切に評価することが必要だ。

脳卒中ではこの回復評価に使われる代表的な指標がFMAスコアになる。FMAでは日常で行うさまざまな動作(上半身の評価の場合約37種類の動作)を患者が行い、各動作がどの程度できたかを医療従事者が見て点数を付ける。FMAは評価法としての高い有効性をもち、広く臨床で用いられている。しかし、評価に用いられる動作は専門家が経験的に選んだものであり、回復に伴う神経活動の変化といった回復メカニズムの面からFMA自体の妥当性を検証する研究は行われていなかった。そこで同研究では、FMAの評価動作中の患者の筋活動を解析し、FMAによって算出された点数と回復に伴う筋活動の変化の関係を調べた。

上半身のFMA評価動作中の患者筋活動を筋シナジー単位で解析

上半身(腕や指の動き)のFMA評価動作中の脳卒中患者20人、健常者7人の筋活動を計測し、同時に活動する筋群ごとに分類をして筋活動を解析。この同時に活動する筋群は筋シナジーと呼ばれ、脳が多数の筋に運動指令を与えるための基本単位と考えられている。すなわち、回復に伴う筋シナジーの変化は、回復に伴う神経系の活動(運動指令)の変化を反映していると考えられている。筋活動の計測にあたって、上半身の動作に関わる活動を網羅的に解析するために、実際に動かす腕や指だけではなく、動作を支える体幹(背中や腹部)の筋肉まで含めた41種類の筋電の活動を計測し、解析した。

上半身すべての動作で体幹後部の活動が重要

はじめに健常者の筋活動の分析を行うことで、13種類の筋シナジー(以下、基準シナジー)が健常被験者に共通してみられることがわかった。各基準シナジーは、それぞれ上腕、前腕、指、胸部、腹部、体幹後部といった身体の各部位の筋の集合によって構成されていた。37種類のFMAの動作がどの基準シナジーによって構成されているかを調べると、上腕、前腕、指に関わる基準シナジーが順に活動し、同時にすべての動作において体幹後部に対応する基準シナジーが活動していた。

脳卒中患者の体幹後部の活動を調べてみると、軽症の患者では健常者に比べて体幹後部の基準シナジーの活動が上昇しているに対して、重症の患者では逆に減少していることが判明。これらの結果は、上半身すべての動作において体幹後部の活動が重要であり、タスクの遂行がうまくできなかった重症患者では、体幹がうまく使えていなかった可能性が明らかになった。

重症な患者ほど基準シナジーの融合度「高」

次に、FMAスコアによって評価された回復度と筋シナジーの変化を調べるため、基準シナジーと各患者の筋シナジーの間の相関を計算。その結果、軽症患者では基準シナジーと患者の筋シナジーの間に1対1の対応関係があるのに対して、重症になるに従って対応が崩れ、各患者の筋シナジーは複数の基準シナジーが融合するように構成されていることが判明した。さらにFMAスコアが低下(重症度が上昇)した患者ほど基準シナジーの融合度が高いことがわかった。

機能低下が顕著な重症の患者では、運動指令を個々の基準シナジーごとに与えられずに(融合した)不必要な筋シナジーが同時に活動していると考えられ、このような神経系の性質がFMAスコアに反映されていることが、この結果からわかった。これにより、FMAの回復評価が神経系で見られる筋シナジーの性質を反映しているという裏付けをはじめて行ったことになるという。

FMA評価のための動作、26動作に簡略化できる可能性も

研究グループはさらに、このFMAスコアと筋シナジーの融合度の相関の関係からFMAの各動作の妥当性を評価。全37動作のうち26動作では相関が存在し、残りの11動作ではあまり相関がみられないことから、FMAの評価のための動作を26動作に簡略化できる可能性を示したとしている。

神経的な裏付けを基にした効果的なリハビリにつながると期待

FMAの評価を行うためには、上半身だけで37種類の動作を順に行う必要があり、一回の評価に20~30分の時間が必要だ。同研究で神経活動の性質と各動作の関係を明らかにしたことで、FMAの効果を維持しながら動作を削減し、簡略化できる可能性が示された。さらに、各動作が筋のどの特徴を評価しているかを明確にしたことで、患者に応じて重点的に評価を行うべきタスクを選択するオーダーメイド評価法につながる可能性も考えられる。評価の簡略化は患者と医療従事者の負担を軽減するとともに、簡略化した評価の頻度を上げることで、より精度の高いリハビリ治療につながるという。

また、同研究では、上半身の筋活動を網羅的に解析したことで、体幹筋群の活動が動作に大きく関与し、回復度によって異なっていることがデータからはじめて明らかになった。このことはリハビリにおいて体幹筋群を意識することの重要性を示唆している。このように、同研究で得られたFMAスコアと筋活動の知見は、神経的な裏付けを基にした効果的なリハビリにつながると期待される、と研究グループは述べている。

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