TLSはがん微小環境にどのように誘導され、患者の生存にどんな影響を及ぼすのか?
京都大学は8月5日、卵巣がんにおけるがん微小環境において、慢性的な免疫応答にかかわる三次リンパ様構造(TLS)の形成メカニズムと臨床的意義の一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科 婦人科学産科学の濱西潤三准教授、浮田真沙世同特定病院助教、万代昌紀同教授らと、同研究科 免疫細胞生物学教室の吉富啓之准教授、上野英樹同教授らとの共同研究グループによるもの。研究成果は、「JCI-Insight」にオンライン掲載されている。
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がん微小環境へのT細胞(特にCD8陽性T細胞)の浸潤は、これまでさまざまながんにおいて患者の予後因子となることが報告されている。一方、B細胞については、悪性腫瘍における機能的な役割は十分に解明されていない。
近年、慢性炎症に伴って、後天的に非リンパ組織に形成される三次リンパ様構造(TLS)が、複数のがん腫において確認され、注目されている。しかし、リンパ節などの二次リンパ組織と異なり、先天的に決まっている構造ではないTLSが、がん微小環境においてどのように誘導され、患者の生存にどのような影響を及ぼすのかについては明らかにされていなかった。
卵巣がんの約6割にTLSを確認、CD8陽性T細胞に加えB細胞性免疫細胞も高度に浸潤
研究グループは、卵巣がんの腫瘍標本を用いてTLSが存在するかを調べた。その結果、卵巣がんの約6割にTLSを認めた。さらに、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の分布について検討したところ、TLSをもつ症例では、腫瘍内のT細胞性免疫細胞(CD8陽性T細胞)だけではなく、B細胞性免疫細胞(B細胞や形質細胞)も高度に浸潤していることが明らかになった。
卵巣がんマウスにCXCL13投与でTLSやCD8陽性T細胞が誘導され生存期間が延長
また、TLSの形成に関わる重要なケモカインの一つであるCXCL13の遺伝子発現は、TLSをもつ症例で高く、さらに腫瘍内のさまざまな腫瘍浸潤リンパ球数と相関し、卵巣がんの予後因子となることも判明した。さらに、がん微小環境においてCXCL13は、腫瘍形成初期段階のTLSにおいてはCD4陽性T細胞が発現し、成熟段階になると濾胞性樹状細胞優位に発現が移行することから、特にCXCL13分泌CD4陽性T細胞はTLSの初期形成において重要である可能性が示唆された。
また、マウス卵巣がんモデルに対してCXCL13を腹腔内投与したところ、がん局所にTLSを誘導することができ、さらに、がん微小環境に CD8陽性T細胞を誘導し、担がんマウスの生存期間が延長することが明らかになった。これらの結果から、がん微小環境におけるCXCL13やTLSの誘導は、がん微小環境の免疫状態を増強する新たな治療法開発に応用できることが明らかになった。
CXCL13やTLSの誘導が、がん微小環境の免疫状態を増強する新規治療法につながる可能性
今回の研究により、卵巣がんにおいて、新たにTLSやB細胞性免疫とT細胞性免疫の協調的な抗腫瘍反応の重要性が解明された。
「今後は、さまざまながん腫の横断的な検討とともに、CXCL13などのTLS誘導による新たながん治療戦略への応用が期待される」と、研究グループは述べている。
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