悪性高熱症で遺伝的変異が見られるRyR1、熱産生を暴走させる仕組みに関与?
大阪大学は8月8日、全身麻酔時に高体温になる疾患である悪性高熱症について、その原因となるタンパク質への遺伝的な変異が、熱に対するタンパク質の応答を過敏にすることを発見したと発表した。この研究は、同大蛋白質研究所蛋白質ナノ科学研究室の鈴木団講師、原田慶惠教授、量子科学技術研究開発機構の大山廣太郎主幹研究員、東京慈恵会医科大学の山澤徳志子准教授、福田紀男准教授、小比類巻生助教らを中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences, U.S.A.)」にオンライン掲載されている。
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悪性高熱症を発症する患者では、1型リアノジン受容体(RyR1)に遺伝的な変異(RyR1変異体)が見つかっている。吸入麻酔薬などによってRyR1変異体からカルシウムが異常に放出され、カルシウムイオンが筋肉での力の発生と代謝異常を誘発し、その結果、熱産生が制御不能になり体温が異常に上昇することで悪性高熱症が生じる。
これまでRyR1に関する構造生物学、生化学、生理学からの検証が広く進められてきた一方で、熱がRyR1に与える効果はほとんど研究の対象にならなかった。その理由は、熱産生は悪性高熱症の結果に過ぎず、原因に関わるものとは一般に考えられてこなかったことや、熱産生に着目した場合でも、精密に制御した熱刺激を細胞に与える技術が無かったことがあげられる。今回、研究グループは、悪性高熱症の仕組みのどこかに熱産生を暴走させるステップがあると考え、研究を進めた。
RyR1変異体が熱への応答を過敏にし、さらに熱産生を誘導して暴走する仕組みを発見
今回の研究では、RyR1変異体を持つ細胞を用いて、細胞のカルシウムイオンの量を顕微鏡でモニターする技術と、局所熱パルス法を組み合わせて利用。解析の結果、細胞が1秒以内に熱刺激へ応答し、細胞のカルシウムイオンの量が上昇する様子を観察することに世界で初めて成功した。
さらに複数の異なる実験から、熱がRyR1からのカルシウムイオンの放出を誘導するという結論が支持された。RyR1には、「カルシウム誘発性カルシウム放出」という仕組みがある。この言葉になぞらえ、研究グループは今回見出された新しい現象を「熱誘発性カルシウム放出」と名付けた。熱誘発性カルシウム放出は、変異の無いタンパク質でも見られた。細胞には、自分自身で産生する熱を「熱シグナリング」としてその場で上手く利用して、細胞内のカルシウムシグナリングを効率よく調節できる仕組みが備わっているのかもしれない、と研究グループは考察している
同研究で解析した4種類のRyR1変異体の全てが、変異していないRyR1に比べて熱への応答が過敏であると同時に、熱応答性に違いが見られた。悪性高熱症と言っても、少なくともタンパク質レベルでは、熱暴走に違いがある。麻酔薬を使用する前に変異体を特定することで、熱暴走の特徴を事前に予測することも可能になると期待される。
熱中症発症メカニズム解明や発症予測にも役立つ可能性
悪性高熱症に関連するRyR1変異体は、熱中症との関連も指摘されている。今回の研究成果は、熱中症の発症メカニズムの解明や発症の予測にも役立つ可能性がある。変異体の熱感受性を低下させる方法を得て、悪性高熱症や熱中症を予防したり、治療したりする創薬への展開も期待される、と研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU