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急性赤白血病、ゲノム解析で4つのサブグループに分類し治療標的も発見-京大ほか

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2022年08月10日 AM10:57

AMLの1つとして分類されるAEL、進行が速く有効な治療がない症例もある

京都大学は8月5日、124例の急性赤白血病(AEL)に対し次世代シーケンサーを用いた包括的なゲノム解析を行い、変異プロファイルからAELは4つのサブグループに分類されることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学研究科の小川誠司教授、竹田淳恵研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Blood Cancer Discovery」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

AELは、幼弱な赤芽球の顕著な増殖を特徴とするまれな白血病で、現在のWHOによる分類では急性骨髄性白血病()の1つとして分類されており、骨髄の赤芽球の割合、分化の程度が極めて著しい純粋な赤白血病()と他のAMLと同様骨髄芽球の増多も認める赤血球/骨髄性白血病(EML)に分類される。

近年のゲノム解析技術の革新を背景として、AELに関してもTP53変異を高頻度に認めるなどいくつかの報告がされている。しかしTP53変異は他のAMLにも認めるので、特徴的な赤芽球増多の原因を十分に説明するものではなかった。また、AELでは、現在、他のAMLに準じた治療が行われているが、一部の症例では、病気の進行が著しく、そうした症例については、いまだ有効な治療法が確立されていない。そこで今回、研究グループは、最先端のゲノム解析手法を用いて、AELを特徴づける遺伝子異常の解明と、その分子病態の解明を試みた。

AEL124症例を包括的にゲノム解析、A~Dのサブグループに分類

研究グループはまず、121人の成人発症AELの症例の骨髄または末梢血から調整したゲノムDNAについて、次世代シーケンサーを用いて解析し、AELで特徴的に認められる遺伝子の変異を解析した後、既報の3例と合わせた計124例について、包括的に解析した。その結果、成人AELでは、、NPM1、STAG2遺伝子がほぼ重複することなく高頻度で認められ、これらの遺伝子変異の有無によって、大きく4つのグループ(A~D)に分類されることが明らかになった。これらの変異は他のAMLでもしばしば認められる変異だったが、それぞれの変異を持つAELとAEL以外のAMLを比較したところ、AELでは上記の変異に加えて、AELを特徴づける変異がしばしば認められ、AELを特徴づけていることがわかった。

高頻度にTP53変異、染色体増幅部分にJAK2、EPOR、ERG、ETS2

特に4つのグループの中でも最も頻度が高いのがTP53変異であり、約40%(50/124)を占めた。TP53はヒトのがんで最も高頻度に変異しているがん抑制遺伝子であり、それが変異し機能を喪失することで発がんに寄与することが示されている。この変異を持つ症例ではしばしば複雑な染色体が認められるが、AELにおいてもTP53変異例では複雑な染色体異常が確認され、中でも、9、19、21番染色体にAELにおいて特徴的に高頻度で増幅が認められた。そこで、それらの増幅によって影響を受けている「標的遺伝子」を探る目的で、異なる症例で共通に増幅している領域について詳細に検討した。

TP53変異を持つAEL 50例におけるそれぞれの染色体の増幅している領域を確認したところ、広く増幅する症例もあれば、狭い領域に限局し高度に増幅している症例もあった。共通増幅部分にはそれぞれJAK2、EPOR、ERG、ETS2が含まれており、これらがAELの発症に関わる増幅の標的遺伝子と考えられた。

染色体増幅は特にJAK2とEPORの過剰発現と相関、AELの病態形成に重要と示唆

また、Non-AELのTP53変異例と比較したところ、9番、19番染色体の増幅が統計学的に有意にTP53変異をもつAELに濃縮していた。特筆すべきことにAK2、EPORの増幅はAELの中でも顕著な赤芽球系の増殖を特徴とするPEL(Pure Erythroid Leukemia)で特に高頻度に認められており、この病型を特徴づける異常となっていることが明らかとなった。またこれらの遺伝子増幅が実際に、発現上昇に関与しているかどうかを検討するために、それぞれ増幅がある症例の発現を測定し、増幅がない症例と比較をした。すると、それぞれ遺伝子増幅と発現上昇は相関する傾向にあり、特にJAK2とEPORの増幅は、それぞれの遺伝子の過剰発現と有意に相関していた。

EPORは赤芽球の産生に必須とされるエリスロポイエチンの受容体となっており、JAK2はこの受容体と結合してそのシグナルを伝える鍵となる分子となっている。これらのことから、EPORやJAK2の遺伝子増幅によって、エリスロポイエチンの刺激が過剰に細胞に伝わることが、これらの異常を有するAELの病態の形成に重要な役割を担っていることが示唆された。

EPORの増幅はPELを特徴付け予後不良

次に、変異情報からの分類と予後との関連を明らかにする目的で、生存解析を行った。結果、Group A~Dの中でTP53変異をもつGroup Aが予後不良因子であり、他3 Groupの予後に有意な差は認められなかった。驚くべきことに、予後不良とされるGroup Aの中ではEPORの増幅が年齢と共に予後不良因子として抽出された。これにより、EPORの増幅が「AELのなかでも赤芽球の顕著な増殖を特徴とするPELの病型を特徴づけること」「予後不良のGroup Aのなかでもさらに予後不良な一群となっていること」がわかった。

治療標的は「増幅しているEPOR-JAK2のシグナル経路」、JAK阻害剤が有効な可能性

これまでの結果を検証するために、予後不良のJAK2またはEPORの増幅/変異を伴うTP53変異例AEL6症例の腫瘍細胞よりヒト由来の(PDX)マウスモデルを作製した。検証の結果、JAK阻害薬(ルキソリチニブ)により4つのモデルにおいて生存期間の延長が認められた。その治療効果はJAK2によるリン酸化によって活性化されるSTAT5のリン酸化の程度と一致しており、増幅しているEPOR-JAK2のシグナル経路の遮断によって、抗腫瘍効果が得られる可能性が示唆された。

さらに症例数を集めて治療効果の予測バイオマーカーを探索することが課題

今回、研究グループは、AELというまれな疾患について、多施設や患者の協力を得て多症例を最先端のゲノム解析によって詳細に解析することにより全体像を明らかにし、他のAMLとの異同を明らかにした。さらにAELの中で予後不良な群の中でもさらに予後不良な一群に対し治療標的を見つけ、その阻害薬が実際ヒトの検体を用いて作製したマウスモデルで抗腫瘍効果を発揮し生存期間を延長させることを示した。この結果により、JAK阻害剤を用いた治療によって、AELに罹患した患者の予後を改善することができる可能性が示唆された。

しかしながら、今回作製したAELマウスモデルの数は限られており、また、JAK阻害剤も実際の患者に投与したわけではないため、実際の効果についてはさらなる検証が必要だ。研究グループは、「今後さらに症例数を集め、効果を予想するバイオマーカーを探索し、他の治療法と組み合わせることで、この難治性白血病に対してさらにより良い治療を模索していくことが課題であると考えている」と、述べている。

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