多くの疾患に関わるフェロトーシス、治療標的として期待されている
東北大学は8月4日、ビタミンKにはフェロトーシスを強力に防ぐ作用があることを新たに発見し、さらに、これまで50年以上その正体が不明であったビタミンKを還元する酵素を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科腎・膠原病・内分泌学分野の三島英換非常勤講師、医工学研究科の阿部高明教授、農学研究科の伊藤隼哉助教、仲川清隆教授、ドイツ・ヘルムホルツセンターミュンヘンらの研究グループによるもの。研究成果は「Nature」にオンライン掲載されている。
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フェロトーシスは、脂質酸化依存性細胞死とも呼ばれる細胞死の一つで、脂質ラジカルに起因する細胞膜成分のリン脂質の過酸化によって引き起こされる。フェロトーシスは近年、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患や虚血再灌流時の臓器障害、がん細胞に対する抗がん薬の感受性などに関与することが知られており、世界的に注目を浴びている生命事象であるとともに、これらの病気の治療薬の標的となることが期待されている。フェロトーシスを防ぐ生体内の経路としては、酸化した脂質を無害化する酵素GPX4、コエンザイムQ10(ユビキノン)を還元して脂質ラジカルを捕捉する酵素FSP1が知られ、またフェロトーシスを抑える生体内の抗酸化物質としてビタミンEが知られている。現在、世界的にフェロトーシスを制御する新たなメカニズムや生体内代謝物が探索されている。
ビタミンKにフェロトーシス抑制作用を発見、ビタミンK2投与でマウス臓器障害を軽減
今回研究グループは、ビタミンKが関与する経路がフェロトーシスを防いでいることを明らかにした。まず、フェロトーシスを起こす細胞(GPX4欠損細胞)を使って、フェロトーシスを抑える作用を有するビタミン化合物を探索した。その結果、ビタミンE以外にもビタミンK(フィロキノン、メナキノン-4)にフェロトーシスを抑える作用があることを発見した。中でも、ビタミンK2としても知られるメナキノン-4はビタミンEより低い濃度でもフェロトーシスを抑える作用を持っていることがわかった。また、フェロトーシスによる肝障害や腎障害を引き起こすマウスにメナキノン-4を投与することで、臓器障害を軽減することができた。
FSP1が還元したビタミンKが脂質の酸化を抑え細胞死を抑制
また、ビタミンKがフェロトーシスを防ぐメカニズムを検討した結果、ビタミンK自身に抗酸化作用はないものの、還元型のビタミンKが強い抗酸化物質として働き、脂質ラジカルを捕捉することでフェロトーシスを防ぐことがわかった。さらに、そのビタミンKを還元する酵素は、これまでコエンザイムQ10の還元酵素として知られていたFSP1であることを明らかにした。
ワルファリン中毒に対するビタミンKの解毒メカニズムも解明
また、ビタミンKの従来の役割である血液凝固に関わるビタミンK代謝サイクルにおけるFSP1の働きを検討した結果、FSP1はこれまで50年以上その正体が同定されていなかったワルファリン非依存性のビタミンK還元酵素であることがわかった。この酵素の発見は、血液凝固に関わるビタミンK代謝サイクルに残された最後の謎を解き明かしたとともに、抗凝固薬であるワルファリンが過剰に効きすぎた中毒時になぜビタミンKが解毒剤となるのか、その分子メカニズムを解明した重要な報告である。
フェロトーシスが関わるさまざまな病気の治療薬開発などに期待
今回の研究によって、50年以上不明であったビタミンK還元酵素がFSP1であることを同定し、この酵素を介して変換された還元型のビタミンKが抗酸化物質として働き、脂質の酸化を抑えてフェロトーシスを防ぐことがわかった。フェロトーシスが関係する病気(アルツハイマー病など)に対して、ビタミンKのフェロトーシスを防ぐ作用に基づいた新たな治療法の開発の糸口になることが期待される。「フェロトーシスは進化の過程で最も古いタイプの細胞死の一種と考えられているため、地球上の生命進化における生体内のビタミンKの役目について新たな側面からの解明が期待される」と、研究グループは述べている。
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