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不妊・流産の原因解明へ、卵子におけるエピゲノム制御の一端を明らかに-九大ほか

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2022年08月05日 AM11:11

国内で不妊治療を経験した夫婦は2割近く、不妊や流産の原因解明が望まれる

九州大学は8月3日、受精後の成長に必須である卵子のエピゲノムの一端を明らかにしたと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所・高等研究院の佐々木裕之特命教授・特別主幹教授、同大大学院医学研究院の小川佳宏教授、同大医学系学府博士課程の矢野誠一、山梨大学生命工学科の石内崇士准教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

国内で不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は18.2%、また死産・流産を経験したことのある夫婦の割合は全体の15.3%にのぼる。不妊や流産の原因を明らかにし、その予防や治療に貢献するために、卵子の遺伝子が受精後に働く仕組み()を解明することが望まれている。

受精後の胚の成長に必要な卵子のエピゲノム機構、半分以上の仕組みは不明

エピゲノムの実体はDNAのメチル化や(DNAに結合する)ヒストンタンパク質のメチル化などの化学修飾である。研究グループは過去に、マウス卵子のDNAメチル化が、受精後の胚の成長に必須であり、DNAメチル化酵素のDNMT3Aにより施されることを発見してきた。近年、卵子において遺伝子が活発に働く領域では、ヒストンH3タンパク質に施されるH3K36me3という修飾が集積し、それをDNMT3Aが認識して高度のDNAメチル化を施すことが報告された。しかし、ゲノムの半分以上を占める残りの領域でDNAメチル化が確立される仕組みは依然不明だった。そこで、研究グループは過去に得られた知見をもとにH3K36me2という別のヒストン修飾に注目した。

卵子ヒストン修飾H3K36me2低下でX染色体のDNAメチル化パターンが変更、メスマウスは不妊に

今回、卵子は他の組織に比べ得られる細胞数が少ないため、解析に必要な細胞数が従来法の100分の1程度(50-300細胞)である微量エピゲノム解析法を駆使してH3K36me2の分布を調べた。その結果、H3K36me2は特にX染色体へ高度に集積し、他の常染色体にも広く観察された。次に、人工的にH3K36me2を低下させると、中程度のメチル化領域でのDNAメチル化が選択的に低下し、X染色体特有のDNAメチル化パターンが常染色体様のパターンに切り替わった。また、この卵子を持つメスマウスは不妊で、正常なオスマウスと交配しても、受精した胚は子宮に着床する前後の時期に死ぬことがわかった。さらに、卵子でH3K36me2とH3K36me3を同時に低下させると、ほとんどのDNAメチル化が低下した。したがって、この2つのヒストン修飾は、マウス卵子においてDNAメチル化を誘導するのに不可欠なプラットフォームを形成することが示された。

研究グループは、「今回の発見は、卵子の遺伝子が受精後どのように働くかを決める仕組みであるエピゲノムの一端を明らかにするものであり、将来的に不妊・流産の原因解明、治療法開発への応用など、生殖医療に役立つことが期待される」と述べている。

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