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世界初、ヒトおよびサルの胎児卵巣から原始卵胞を「体外」で作出することに成功-京大

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2022年08月04日 AM11:36

体外で卵母細胞への分化、卵胞形成を再現するには?

京都大学は8月1日、ヒトおよびカニクイザルを対象とした研究により、胎児の卵巣由来細胞から卵子の元となる原始卵胞を作出する体外培養法の開発に成功したと発表した。この研究は、同大高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-)の斎藤通紀拠点長/主任研究者/教授(兼:同大学院医学研究科教授)、 同大学院医学研究科の水田賢助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「The EMBO Journal」のオンライン速報版に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

生殖細胞は、卵子もしくは精子に分化し、それらの融合により次世代の個体を生み出すことのできる唯一の細胞であり、種の保存や進化において極めて重要な役割を担っている。メスの場合、全ての生殖細胞が胎児期に減数分裂を開始し卵母細胞を形成するという、非常に特徴的な分化様式を示す。その後、卵母細胞は原始卵胞を形成した後に減数分裂過程で一旦とどまる。ヒトでは思春期以降に減数分裂を再開し、最終的な卵子形成過程に入ることが知られている。

これまでに研究グループは、マウス多能性幹細胞を試験管内で始原生殖細胞様細胞へと誘導し、正常な産仔能をもつ精子や卵子へと分化させることに成功している。一方、ヒト多能性幹細胞を起点とした分化誘導については、始原生殖細胞様細胞への分化、さらに卵原細胞の作出に成功してきたが、その後の卵母細胞への分化過程、並びに卵胞の形成過程は再現できていない。原始卵胞は成人卵巣において卵子形成の源となる構造体であり、その体外再構成はヒトの雌性生殖細胞の発生機構の理解を促進する上で必須の技術と考えられている。

サルの再構成卵巣、免疫不全マウスの腎臓被膜下移植で卵母細胞へ分化、卵胞形成

今回の研究ではまず、ヒトのモデル動物として霊長類のカニクイザルを対象とした実験を行い、サル胎児の卵巣由来細胞から卵胞を作製する技術の開発を目指した。サルの胎児卵巣に対する解析の結果、8週齢の胎児の生殖細胞は全てが卵原細胞だったが、その後徐々に減数分裂を開始し、8〜10週間で卵母細胞への分化を進め、18週齢の時点では約半数の生殖細胞が原始卵胞を形成していることが明らかとなった。

次に、8週齢の胎児卵巣の細胞を用いて細胞凝集体(再構成卵巣)を作製し、免疫不全マウスの腎臓被膜下に移植したところ、約12週間後に再構成卵巣内に多数の卵胞形成を認めた。この結果より、サルの再構成卵巣は、適切な条件下であれば、サルの体外においても卵母細胞への分化を進め、卵胞形成に至ることが証明された。

浮遊培養法により作出した卵母細胞、成獣に近い遺伝子発現状態を示す

続いて、サルの卵胞を体外培養により誘導するための条件検討を実施した。まず、マウスでの培養法である気相液相境界面培養を行ったところ、サルの再構成卵巣はその形態を維持することができず、6週間後には平坦化し、卵胞形成に至らないことが示された。そこで、浮遊培養法に切り替え、液体培地の比較検討等により最適な培養条件を見出した結果、長期間に渡りサルの再構成卵巣を維持でき、12週間後には卵胞を誘導可能であることも明らかとなった。

組織学的解析・単一細胞遺伝子発現解析の結果、体外培養環境下でもサルの再構成卵巣内で生体と同様の卵母細胞への分化が進み、卵胞形成に至っていることが証明された。また、驚くべきことに、得られた卵母細胞は、カニクイザルの成獣の卵巣に存在する卵母細胞に近い遺伝子発現状態を有していた。

開発した培養法でヒトでも卵胞形成に成功、霊長類特異的な卵母細胞発生機構も発見

8週齢のサル胎児に相当する、妊娠11週のヒト胎児の卵巣由来細胞に対し、開発した培養法による卵胞の誘導を試みた。その結果、14週間の培養期間を経ることで、ヒト再構成卵巣内に卵胞の形成(全生殖細胞中3%程度)が認められた。種々の解析により、この卵胞は生体と同等の卵母細胞分化過程を経ており、得られた卵母細胞は、成人の卵巣に存在する卵母細胞に近い遺伝子発現状態を有していた。これにより、世界で初めて、ヒトを含む霊長類の胎児の卵原細胞から卵胞を作出する体外培養法の確立に成功した。

加えて、この新規体外培養法により得られたヒトとサルの卵母細胞に対して、組織学的解析・単一細胞遺伝子発現解析を実施したところ、マウスには認められない霊長類にのみ存在する卵母細胞の発生機構の同定に至った。

さらに、マウス・サル・ヒトの全ての種で保存されている制御機構、特に卵母細胞発生過程におけるX染色体の制御機構に関する解析も実施し、報告した。

不妊症などの生殖細胞関連疾患の病因解明・治療開発に期待

今回の研究により、ヒト・サルの卵原細胞を卵母細胞へ分化させ、卵胞形成に至るまでを体外で再構成することに初めて成功した。卵子における遺伝情報継承機構の追究や、不妊症の原因究明および遺伝病の発症機構解明が促進されることが期待される。「今後は、ヒト始原生殖細胞様細胞から卵母細胞そして卵子へと分化誘導する技術の開発を推進していく」と、研究グループは述べている。

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