細胞融合抑制タンパク質サプレシン、ダウン症に見られる胎盤形成不全との関わりは?
広島大学は7月28日、細胞融合を抑制するタンパク質サプレシンがトリソミー21(以下、ダウン症候群)を伴う胎盤で過剰に発現していることを発見し、これがダウン症候群で見られる未熟な胎盤形成の原因の一つである可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医系科学研究科産婦人科の杉本潤助教、山﨑友美助教、工藤美樹教授、アメリカミズーリ大学産婦人科のDanny Schust教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」オンライン版に掲載されている。
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ヒト胎盤では膜状の融合細胞シンシチオトロホブラスト(ST)がその内側に存在するサイトトロホブラスト(CT)細胞と細胞融合を起こし、機能的な胎盤を形成する。近年、この細胞融合過程に、ヒト内在性レトロウイルス(HERV)由来の遺伝子・タンパク質が深く関わっていることが明らかとなってきた。研究グループが世界で初めて発見したサプレシン(suppressyn:SUPYN)もこのHERVの一つで、胎盤特異的な発現により、CT細胞の細胞融合を抑制的に調節することが明らかとなっている。つまり、サプレシン遺伝子・タンパク質は胎盤にとって重要な分子であり、その異常は胎盤形成不全を伴う周産期疾患と深く関わることが予想される。
一方、ダウン症候群を伴う胎盤ではST細胞の形成に異常が報告されており、細胞融合の過程に何らかの問題が生じている可能性が示唆されていた。しかし、染色体が増加することに起因する細胞融合の異常に関して、はっきりとした原因はわかっていない。そこで今回研究グループは、サプレシン遺伝子がヒト第21番染色体に座位することに着目し、細胞融合抑制タンパク質サプレシンと同疾患に見られる胎盤形成不全との関わりを明らかにしようと考えた。
サプレシン増に起因した細胞融合低下で、機能的な胎盤形成が行われない可能性
研究の結果、予想されたように、サプレシン遺伝子・タンパク質はそれぞれ2.2倍、2倍以上の発現増加がダウン症候群を伴う胎盤で確認された。また、この時、サプレシンによる細胞融合抑制効果が亢進し、実際に細胞融合の効率が減少、つまり未融合の細胞が多くなることが明らかとなった。
以上のことから、ダウン症候群を伴う胎盤では、サプレシンタンパク質増加に起因した細胞融合の低下が原因で、機能的な胎盤形成が行われない可能性が示唆された。このサプレシンタンパク質の増加は、妊婦の母体血を用いた測定でも確認され、サプレシン特異的ELISAアッセイ法による予知マーカーとしての可能性が証明された。
サプレシン特異的ELISAアッセイ法+既知の予知マーカー、妊婦母体血を用いたダウン症の予知に期待
サプレシン特異的なELISAアッセイ法を既知の予知マーカーと組み合わせることで、妊婦母体血を用いたダウン症候群の早期もしくは正確な予知が可能となると考えられるという。また、胎盤以外の臓器に認められるダウン症候群特有の症状とサプレシンタンパク質発現増加との関わりを解析することで、ダウン症候群の発症病態の解明につながる可能性がある、と研究グループは述べている。
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・広島大学 研究成果