重症度が多岐にわたる“腹痛” の実態と課題
“腹痛”は身近な症状である一方で、その重症度は多岐にわたる。2022年5月26日にAlnylam Japan株式会社が開催したセミナーでは、同社の小脇浩史氏(医薬品ビジネス本部 本部長)からは約15万人の女性と医師を対象に行われた腹痛に関するアンケート調査について、JA尾道総合病院 病院長 田妻 進氏(広島大学 名誉教授 大学院客員教授/広島県厚生連尾道看護専門学校 校長)からは激しい腹痛に潜む原因と、腹痛診療における課題について講演が行われた。
15万人の女性を対象にしたアンケート調査、「激しい痛み」を経験しても医療機関未受診は65%
身近な症状である“腹痛”の程度は多岐にわたり、その原因はさまざまである。「特に女性では月経や子宮疾患などで腹痛を経験することもあるが、激しい腹痛の中には診断が難しい難病が潜んでいることもある」と、小脇氏は指摘する。Alnylam Japan株式会社が行った15~49歳の女性、15万人を対象に行った意識調査では、40%が「中等度の腹痛(生活はなんとか維持できる)」、27%が「激しい痛み(生活に影響する/その間に何もできない)」を経験していると回答した1)。また、「激しい痛み」を経験した方のうち、医療機関未受診の割合は65%にのぼった。
さらに、「激しい痛み」に対して未受診/受診したが未治療/治療を受けたが改善していない方のうち、約8割が「原因を知りたい」、「受診すべき腹痛の程度を知りたい」と回答し、約7割が「原因に合わせた治療を受けたい」「受診すべき診療科を知りたい」と回答していた。この結果を受け、小脇氏は「腹痛の原因を知って適切な治療を受けたいと思う一方で、受診すべき診療科や腹痛の程度について迷いがあるようだ」と見解を示した。
同時に行った1,725人の医師を対象に行った意識調査からは、腹痛診療の課題が見えてきたという。医師の約6割が「検査結果や所見と症状の強さが一致しない」、約5割が「通常の問診・検査では原因がわからないことが多い」と回答しており、小脇氏は腹痛診療について「診断に難渋している状況がうかがえる。原因疾患となり得る難病のさらなる認知、検査体制充実が求められているのではないか」と述べた。
急性肝性ポルフィリン症を例に、田妻氏「急性腹症は、希少疾病の可能性を踏まえて診る段階に」
田妻氏は、広島大学病院におけるウォークイン患者の受診状況を例に、腹痛診療の現状について紹介した2)。ウォークイン患者全体の約10%が総合診療科を受診しており、中でも腹痛を受診理由とする患者が多いことを踏まえ、田妻氏は「腹痛はよくみられる症状であるものの、その原因は腹部臓器由来のものから胸部臓器由来、代謝性疾患、神経疾患とさまざまなため、診たては容易ではない」と指摘した3)。さらに、急性腹症では診断のつかない特異的腹痛(NSAP)が33%に認められることから4)、田妻氏は「急性腹症は、希少疾患の可能性を踏まえてみていく段階にあるのかもしれない」と述べた。
例えば、急性肝性ポルフィリン症(AHP)は、自覚的初発症状として腹痛が共通してみられるものの、希少疾病であるために診断に行きつくまでに多くの時間を要することがある。現在では治療薬が登場しているAHPについては、「20代での発症頻度が高く、女性に多いということなどを知っておくことが診断と治療につながる」と指摘した。『急性腹症診療ガイドライン2015』では腹部疝痛を繰り返すときに疑うべき疾患が挙げられている5)。田妻氏は、「診療をする医師には、こうした情報を念頭に置いてほしい。そして、原因不明で改善しない、繰り返すような腹痛がある方には総合診療科を受診してほしい」と、医師と患者双方に訴えた。
1) Alnylam Japan株式会社. 腹痛に関する全国実態調査(一般女性および医師対象).
2)田妻 進. 日病総合診療医会誌. 2010; 1: 6-9.
3)杉本 元信. 日本病院総合診療医学会編. 病院総合診療医学 Ⅰ症候編, 2017.
4)Miettinen P, et al. Ann Chir Gynaecol. 1996; 85(1): 5-9.
5)急性腹症診療ガイドライン出版委員会編. 急性腹症診療ガイドライン2015 第1版, 医学書院, 2015.
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・Alnylam Japan株式会社 プレスリリース