軟骨細胞の誘導には多くのステップかつ長期間の培養が必要だった
東北大学は8月1日、遺伝子操作と振盪浮遊培養を組み合わせることで、マウスiPS細胞から成熟度の高い軟骨様組織を迅速に作製できることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院歯学研究科分子・再生歯科補綴学分野の新部邦透講師、江草宏教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Tissue Engineering」にオンライン掲載されている。
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軟骨組織は、軟骨細胞とそれを取り囲む細胞外基質から成り、硝子軟骨・繊維軟骨・弾性軟骨に分類される。関節軟骨は、硝子軟骨から構成され、長骨の骨端部では成長軟骨と呼ばれる一時軟骨の層があり、軟骨性骨化により成長に合わせて骨に置換される。この関節軟骨は、経年的な摩耗や剥離により変形性関節症を発症し、機能低下を来すことがある。その治療には、保存療法、薬物療法(除痛)、軟骨破片を取り除く関節鏡下手術、人工関節置換術などがあるが、失った軟骨が多い場合には難治性となることが問題となっている。
自己複製能と多能性を有する人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、再生医療の細胞供給源として着目され、軟骨再生の分野でも期待されている。しかしながら、iPS細胞から軟骨細胞を誘導するには多くの培養ステップを要し、長期間の培養が必要であるという課題があった。今回、研究グループは、骨や軟骨の発生・形成に関与することが知られているBMP-4の発現を制御しながらiPS細胞を振盪浮遊培養することで機械的刺激を与え、迅速かつ効率的に軟骨細胞へ誘導する技術を見出した。
BMP-4発現制御+振盪浮遊培養で誘導、得られた軟骨様組織で骨組織の再生を確認
研究グループは、マウスiPS細胞に抗生物質誘導性BMP-4発現遺伝子トランスポゾンベクターを非ウィルス的に導入し、容易にBMP-4の発現が制御可能なiPS細胞株を樹立した。BMP-4遺伝子の発現を制御したiPS細胞を振盪浮遊培養条件下で軟骨細胞へ誘導すると、約4週間後には高度に成熟した軟骨様組織が得られた。また、この軟骨様組織をラット膝関節軟骨欠損モデルに移植すると、腫瘍を形成することなく、関節の軟骨および骨組織の再生が確認できた。
試験管内でiPS細胞から軟骨組織を迅速に作製する技術は、再生医療のコストダウンや効率化に繋がることが期待される。「本研究成果は、関節などの軟骨の再生医療に貢献するだけでなく、創薬研究の分野への応用も期待される」と、研究グループは述べている。
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