低侵襲で注目の蛍光ガイド手術、適切なトレーニングモデルがなかった
名古屋大学は7月29日、次世代の技術である蛍光ガイド手術に応用が可能な新たな腫瘍切除モデルを開発し、その有用性を実証したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科・耳鼻咽喉科学の西尾直樹講師、曾根三千彦教授、愛媛大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の三谷壮平特任講師、Vanderbilt大学・耳鼻咽喉科のEben Rosenthal教授、KOTOBUKI Medical株式会社の森本岳執行委員らの研究グループによるもの。研究成果は、「Laryngoscope Investigative Otolaryngology」に掲載されている。
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頭頸部がんを含めた多くの固形がんでは、手術での完全切除が治療において重要となる。不完全な切除は、有意に患者の生命予後を悪化させることが知られている。その一方で、がん治療での拡大切除は、手術の後にさまざまな機能障害が課題となっている。特に、頭頸部領域では、「食べる」「話す」「聞く」など重要な機能を司り、手術での拡大切除により患者の生活の質の低下につながる。
近年、近赤外光をガイドとして血管やがんを光らせてより低侵襲に手術を行う蛍光ガイド手術が注目されている。特に、抗体と蛍光色素を結合させる試薬を用いることで、がん本体やリンパ節転移を特異的に光らせ、必要かつ最低限の手術が可能となっている。さらなる蛍光ガイド手術の発展のためには、実際に外科医がトレーニングすることが必要だが、適切なトレーニングモデルがないのが課題だ。
こんにゃくから作製の模擬臓器に蛍光物質含有の腫瘍モデル、安全で使用後の廃棄も簡単
研究クループはKOTOBUKI Medical株式会社と共同で、こんにゃくから作製した模擬臓器(Versatile Training Tissue:VTT)に蛍光物質であるindocyanine green(ICG)を含有させた腫瘍モデルを開発し、その有用性を実証。さらに、実際の手術現場に応用するために、名古屋大学シミュレーションセンタにて電気メスを用いて、腫瘍の取り残しがわかるかどうかを検証した。腫瘍をぎりぎり切除する核出群と周りの組織をつけて切除する完全切除群で比較したところ、核出術群では切除後に残存の蛍光強度が有意に高く、腫瘍の取り残しが証明された。
こんにゃくから作られている模擬臓器のため、安全かつ使用後は廃棄も簡単であり、若手外科医や学生への手術トレーニングに有用だとしている。
内視鏡・ロボット手術へ応用で、低侵襲かつ確実な切除に期待
今後は、開発した腫瘍モデルを内視鏡手術やロボット手術にも応用することで、より低侵襲かつ確実な切除が期待される。この腫瘍モデルは医師のみならず、同手術で使われる近赤外光カメラ搭載の内視鏡などの製品の新規開発にも応用が期待できるという。さまざまな蛍光試薬や手術で用いる医療機器での検証を行い、蛍光イメージングを応用した、より実践的な手術シミュレーションの開発を行う、と研究グループは述べている。
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