血管奇形疾患の原因遺伝子に着目する動きが広がる中、発症に至る詳細なメカニズム解明が課題
東京大学医学部附属病院(東大病院)は7月29日、眼窩内海綿状血管奇形を含めたさまざまな血管奇形の遺伝子解析や血管内皮細胞などを用いた実験を行うことにより、眼窩内海綿状血管奇形にGJA4という遺伝子の体細胞変異が高頻度に同定されること、この変異がヘミチャネルの活性亢進につながる機能獲得型変異として血管内皮細胞機能を障害することを世界で初めて示したと発表した。この研究は、東大病院脳神経外科の本郷博貴助教、宮脇哲講師、齊藤延人教授、東京大学院医学系研究科衛生学分野の石川俊平教授、分子神経学の辻省次特任教授(研究当時)、東京医科大学臨床医学系眼科学分野の後藤浩主任教授、基礎社会医学系人体病理学分野の長尾俊孝主任教授、大阪大学大学院生命機能研究科パターン形成研究室の渡邉正勝准教授、東大病院形成外科・美容外科の栗田昌和講師、岡崎睦教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科大規模オーミクス解析分野の森下真一教授、同大大学院医学系研究科人体病理学・病理診断学分野の牛久哲男教授、同大大学院農学生命科学研究科動物細胞制御学研究室の高橋伸一郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Angiogenesis」誌にオンライン掲載されている。
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血管奇形疾患は従来、主に顕微鏡で観察される組織所見をもとに分類されてきたが、近年一部の血管奇形で原因遺伝子の変異が発見されるようになり、これに伴って原因遺伝子に着目して疾患を見直す動きが広がりつつある。しかし依然として原因不明の血管奇形も多く存在し、また、原因遺伝子が発見された血管奇形でもその発症に至る詳細なメカニズムまでは十分明らかになっているとは言えない。治療として外科的・内科的治療を組み合わせた集学的治療が行われるものの難治となる場合も多く、発症メカニズムの解明とそれに基づいた根治療法の開発が求められている。
眼窩内海綿状血管奇形において、GJA4遺伝子の体細胞変異を発見
今回、研究グループは、原因遺伝子が判明していない血管奇形の一つで、眼窩内に生じ、視力障害や眼球運動障害をきたす疾患である眼窩内海綿状血管奇形を主な研究対象とした。眼窩内海綿状血管奇形を含むさまざまな血管奇形に対し、約6,000種という幅広い遺伝子について変異を探索したところ、眼窩内海綿状血管奇形にGJA4遺伝子の体細胞変異(c.121G>T)が共通して認められることを発見した。
変異型GJA4を過剰発現させた血管内皮細胞では細胞生存能、血管形成能が低下
そこで眼窩内海綿状血管奇形病変をさらに追加し解析したところ、この変異は高頻度に認められた(25例中26例)。さらに、眼窩内海綿状血管奇形組織から血管内皮細胞とその他の細胞を分離し解析したところ、病変の中でも、特に血管内皮細胞がこの変異をもっていることが明らかになった。GJA4は、それぞれ隣り合う細胞同士、あるいは細胞内と細胞外の物質交換を行う構造であるギャップ結合とヘミチャネルをコードする遺伝子の一種で、特に血管組織の正常な機能の維持に必須の遺伝子であることがもともと知られている。このことからこの遺伝子変異が眼窩内海綿状血管奇形の発症に関与している可能性が高いと考えられ、この変異が細胞機能に与える影響を調べた。
まずアフリカツメガエル卵母細胞で野生型GJA4と変異型GJA4を過剰発現させ、ギャップ結合とヘミチャネルを通過する電流の大きさを測定したところ、変異型GJA4では野生型GJA4と比較しヘミチャネル電流が異常に大きくなった。続いて血管内皮細胞株で野生型GJA4と変異型GJA4を過剰発現させたところ、変異型GJA4を過剰発現させた血管内皮細胞で細胞生存能の低下、血管形成能の低下が認められた。さらに、変異型GJA4を過剰発現させたアフリカツメガエル卵母細胞・血管内皮細胞株で観察されたこれらの異常は、ギャップ結合・ヘミチャネル阻害剤により回復した。以上の結果から、GJA4変異によりヘミチャネルが異常に活性化することで血管内皮細胞機能障害が生じ、これにより血管奇形形成に至る可能性が示唆された。
その他の血管奇形の病態解明、根治療法の開発につながる可能性も
今回、眼窩内海綿状血管奇形においてGJA4変異が高頻度に同定されることが初めて報告された。眼窩内海綿状血管奇形は眼窩内病変の中でも頻度が高い疾患で、今回の研究成果はその原因の究明に貢献する貴重なデータを示すものだという。加えて、全身のその他の血管奇形においては複数の部位の血管奇形が同種の遺伝子変異をもつ場合があることがわかっており、今回同定されたGJA4変異がその他の幅広い種類の血管奇形にも関与している可能性がある。「今後、GJA4やヘミチャネルに着目した研究が進むことで血管奇形の病態解明が発展し、根治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース