ヒトASCの体内動態・細胞間コミュニケーションに注目し、重症腎炎に対する作用機序を解析
名古屋大学は7月29日、脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)が骨髄由来間葉系幹細胞と比較して「致死性重症腎炎」を劇的に改善させることを見出し、その作用機序について、投与したASCの生体内動態から解明したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科腎臓内科学の島村涌子大学院生(現在、コロンビア大学博士研究員)、丸山彰一教授、同大学医学部附属病院腎臓内科の古橋和拡病院講師、田中章仁病院助教、同大大学院医学系研究科分子腫瘍学の鈴木洋教授の共同研究によるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
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間葉系幹細胞(MSC)は、優れた再生促進能と免疫調整能があることが知られており、既存の薬剤で治療効果が期待できない難治性疾患に対する治療効果が期待されている。そのため、現在では世界的に1,000を超える臨床試験が行われ、難治性疾患においてその有効性が示されている。研究グループも「難治性IgA腎症」に対して、ASCを用いた臨床研究を行っている。
MSCはその高い治療効果から新たな再生医療として世界的に注目を集め、治療機序に関しても精力的に研究が行われているが、どれも単一の分子では作用機序に関して完全には説明ができていない。作用機序が解明されればMSCの治療効果をさらに増強できるだけでなく、細胞を投与せずに治療可能な創薬への手がかりをつかむことが可能となる。これまでの動物モデルでのMSC研究では、マウスやラットのMSCの使用がほとんどだったが、動物種が変わると、MSCの作用や機序も変わることが想定される。そこで今回の研究では、ヒトMSCを使用することで、臨床へ直結する機序解析を行うことを目指した。さらに今回、分子レベルでのこれまでの機序解析とは全く別のアプローチを取り、生体内に投与したASCがどこでどのように作用しているのかという、体内動態および細胞間コミュニケーションに注目した。
脾臓の摘出でASCの腎炎に対する治療効果が消失し、腎臓での制御性T細胞の誘導も消失
今回、研究グループは、ラットを用いた実験により、脂肪由来間葉系幹細胞(ASC)が骨髄由来間葉系幹細胞と比較して、致死性重症腎炎を劇的に改善させることを見出し、その作用機序について、投与したASCの生体内動態から解明した。ASCは劇的に腎障害を改善させたが、腎臓にはASCそのものはほとんど存在せず、脾臓に多く存在していた。
そこで、脾臓を介してASCが治療効果を発揮しているのか明らかにするため、脾臓を摘出した後にASCを投与し、腎炎に対する治療効果を評価した。その結果、脾臓を摘出するとASCの腎炎に対する治療効果が消失し、腎臓における制御性T細胞の誘導も消失することを見出した。
脾臓へ到達したASCがEVsを放出、そのEVsが免疫制御マクロファージへ特異的に移送される
一方で、腎臓において標識したASCの細胞膜成分は、ASCそのものではなくASC由来の細胞外小胞(EVs)の形で存在することを、フローサイトメトリー解析と高解像度顕微鏡により明らかにした。EVsは最近注目を集める細胞間コミュニケーションツールであり、細胞が自分の細胞成分を細胞のかけらに包んで相手の細胞へ受け渡している。これにより、1つのタンパク質だけでなく、複数のタンパク質を複合的に同時に受け渡すことが可能になるという。
結果として、脾臓へ到達したASCがEVsを放出し、そのEVsが免疫制御マクロファージへ特異的に移送されることが見出された。
EVsの移送で免疫制御機能が強化されたマクロファージが腎臓の修復に寄与
研究グループはさらに、EVsの移送によりマクロファージの免疫制御機能が強化され、同マクロファージは脾臓から循環血中へ入り腎臓へ到達することで、腎臓の修復に寄与していることを最新のイメージング技術・細胞機能解析から解き明かした。
また、投与したASCが生体内で分泌したEVの検出に成功したことで、生体内で産生されたASC由来EVsが免疫制御マクロファージに誘導した機能的変化を次世代シーケンサーによるRNAseq解析から世界で初めて明らかにした。
難治性炎症疾患に対する新規治療法として臨床応用を目指す
研究グループはかねてより、脂肪は骨髄に比較し採取が容易で、優れた増殖能をもつことからASCに注目していたが、今回の研究で、骨髄由来間葉系幹細胞よりもASCが高い免疫調整能・臓器保護能を有することが見出された。今後は腎炎に留まらず、さまざまな難治性炎症疾患に対する新規治療法としての臨床応用を目指すとしている。
「本研究で解明したASCの作用機序を、治療効果をより高めた新規治療法へ応用し、さらには細胞そのものを直接投与しないEVsを用いた革新的治療法へ発展させる」と、研究グループは述べている。
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