レセプト、健診結果、介護認定等を統合した京都市のビッグデータを解析
京都大学は7月28日、京都市が保有する「統合データ」(国民健康保険および後期高齢者医療制度加入者の医療レセプト、健診結果、介護認定情報、介護レセプト等を統合したデータベース)を用い、新規発症の原発性肺がん患者において患者の背景、初回治療内容、生存期間、各治療の医療費を算出し、その結果を発表した。この研究は、同大医学研究科の石見拓教授、中山健夫教授、島本大也特定助教、立山由紀子特定助教、環境安全保健機構の小林大介助教、医学研究科の高橋由光准教授、国際高等教育院の植嶋大晃特定講師、医学研究科佐々木康介大学院生らと、京都市、アストラゼネカ株式会社、株式会社ヘルステック研究所の共同研究グループによるもの。研究成果は、「Value in Health Regional Issue」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
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同大医学研究科の社会健康医学系専攻健康情報学分野および予防医療学分野が中心となり、さまざまな疾患の発生状況や患者背景、その予防・治療の実態、それら診療プロセスと死亡等との関連性を明らかにし、健康寿命の延伸に生かすことのできるエビデンスの創出を目的に、京都市と共同研究を進めている。特に、医療レセプトや、特定健診、介護認定、介護レセプト等の市民の健康に関する情報を統合したビッグデータ(以下「統合データ」という。)を分析する事業として実施している。
肺がんは死因の多くを占める疾患の一つであり、治療に伴う医療費負担も大きな課題だ。また、近年では薬物療法を中心にその治療方法が変化しており、治療内容、治療効果、および医療費の詳細な検討が必要になっている。
今回の研究は、肺がんの好発年齢である高齢者の多くをカバーした統合データを用いて、肺がんの治療内容、医療費の経年的な変化を記述することにより、日本の肺がん治療の内容と転帰、および経済的負担の変遷を明らかにすることを目的として実施された。
2013年10月~2019年3月に肺がん治療を受けた4,845人が対象
京都市が保有する統合データ(国民健康保険および後期高齢者医療制度加入者の医療レセプト、健診結果、介護認定情報等を統合したデータベース)を用いて研究を実施した。対象は新規発症の原発性肺がん患者であり、レセプトデータを用いて2013年10月~2019年3月までの間に肺がんの病名が紐付く手術、薬物療法、放射線療法いずれかの治療を受けた者を選定した。選定された患者の背景、治療内容、生存期間、各治療の医療費を算出し、経年的な変化をまとめた。最終的に4,845人が研究対象となり、年齢の平均値は73歳だった。
初回治療として手術を受けた割合は経年的に増加
解析の結果、初回治療として手術を受けた割合は、35.2%から39.6%まで経年的に増加していた。また、2年以内に死亡する患者の割合は2013年度の42.7%から2016年度の36.8%まで改善している傾向が認められた。
2018年度、薬物療法費用全体の約60%を免疫チェックポイント阻害薬が占める
総医療費(2014年度~2018年度の肺がん全患者の治療にかかった費用)は全て経年的に増加傾向だった。治療内容ごとの総医療費は、「手術」2億4989万3,000円から3億1488万3,000円、「薬物療法」3億8611万3,000円から6億639万7,000円、「放射線療法」1億2,793万円から1億4248万6,000円と、薬物療法における医療費の増加が著しい結果となった。さらに、2015年度以降は免疫チェックポイント阻害薬の使用者数およびその費用が増大しており、2018年度には薬物療法費用全体の約60%を占めている結果が示された。
自治体が専門家と協力して施策の評価を行う取り組みの広がりに期待
今回の研究により、ベンチマークとして重要なデータが示された。その一方で、経年的な医療費の増大も明確となり、予防施策の強化等によって医療費の増加を抑制することの重要性も改めて浮き彫りとなった。
また、自治体が管理しているデータベースの解析研究であり、同様の解析はあらゆる自治体において可能であると考えられる。自治体が専門家と協力して施策の評価を行うモデルケースでとして同様の取り組みが広がることで、今後さまざまな自治体における施策の客観的評価及び改善につながる可能性がある。
「研究成果は肺がんをテーマにした統合データ解析研究の第1弾であり、今後は肺がんの治療内容ごとの予後を直接比較する研究や、肺がん検診の実態や効果を検討する研究を実施、発表していく予定」と、研究グループは述べている。
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