HMOs利用能が非常に低いB. breve、母乳栄養児の腸内で優勢となる理由は?
京都大学は7月27日、乳児におけるビフィズス菌叢形成に生態学的視点を取り入れることで、「B. breve」が優勢となる場合においては「先住効果」が大きな影響を及ぼしていることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の尾島望美博士研究員および片山高嶺同教授らと、森永乳業株式会社、ジョージア工科大学、サンフォードバーナムプレビス医学研究所、新潟大学、滋賀県立大学、京都女子大学、帯広畜産大学、コーク大学の共同研究グループによるもの。研究成果は、「The ISME Journal」にオンライン掲載されている。
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ヒト母乳栄養児の腸内では一般に、ビフィズス菌優勢な細菌叢が形成され、免疫系の発達に影響を及ぼすことが知られている。研究グループはこれまでに、母乳に含まれるオリゴ糖成分(ヒトミルクオリゴ糖:HMOs)が、ビフィズス菌の選択的増殖因子(ビフィズス因子)として機能することを明らかにしてきた。このことから、欧米を中心に一部のHMOsの商業生産と調製乳への添加が始まっている。
しかし、ビフィズス菌は菌種や菌株によってHMOsの利用戦略や利用能力が大きく異なっており、どのような条件において特定のビフィズス菌が優勢となるのかについては、不明な点が多く残されていた。特に「Bifidobacterium breve」は、HMOs利用能が非常に低いにも関わらず多くの母乳栄養児の腸内において優勢となることから、そのメカニズムの解明が期待されていた。
HMOs利用能の高い菌<分解した等をB.brave等に与える<ビフィズス菌占有率「高」
研究グループは今回、B. breveが高いHMOs利用能を有する菌種(Bifidobacterium infantis やBifidobacterium bifidum)が環境中に導入される前、あるいは、ほぼ同時に導入された場合に、それらが分解したHMOsの一部、特に、HMOsの構成糖である「フコース」を奪うことでコミュニティーを独占することが可能であることを、in vitroの混合培養実験によって明らかにした。
この結果をふまえ、ヨーロッパで行われた大規模な乳児コホートの糞便DNAメタゲノムデータを解析したところ、出生直後にB. breveがすでに検出されていた乳児では、4か月時点において、B. breveがビフィズス菌コミュニティーの優占種(50%以上)となっている頻度が有意に高いこと、また、このような傾向は他のビフィズス菌種では全く観察されないことが判明。加えて、B. bifidumが検出される乳児では検出されなかった乳児と比較し、腸内細菌叢全体に占めるビフィズス菌の占有率が有意に高いことも明らかになった。
B. bifidumがB. breveのみならず、他のビフィズス菌にも分解した糖を与えることは、先述したin vitroの混合培養実験からも強く示唆されている。
調製乳へのHMOs添加を効率的に行うための重要な知見
乳児期の腸内細菌叢形成はヒトの一生の健康状態に影響を与えることが示唆されており、特に先進国においては乳児期に積極的な介入を行うことが検討され始めている。
「本成果は、調製乳へのHMOs添加が始まった現在において、より効果的な介入を行うために重要な情報を提供するものと考えられる」と、研究グループは述べている。
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