外科医不足が深刻化、指導的立場にある女性外科医はわずか0.7%
大阪医科薬科大学は7月28日、日本の外科手術の95%以上が登録されているNational Clinical Database のデータを用いて、執刀数を男女間で比較し、その結果、女性外科医は男性外科医より執刀数が少ないことが判明したと発表した。この研究は、同大医学部一般・消化器外科学教室の河野恵美子助教、東京大学大学院医学系研究科消化管外科学の野村幸世准教授、岐阜大学の吉田和弘学長らの研究グループによるもの。研究成果は「JAMA surgery」誌にオンライン掲載されている。
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厚生労働省3師調査によると、2006年の外科医師数は3万2,448人であったが、2018年には1万3,751人と激減し、外科医不足が深刻化している。一方、外科医に占める女性の割合は4.2%から6.2%に増加しているが、2006年・2018年ともに年齢層別の女性外科医数は、30〜34歳が最も多く、指導的立場にある女性は極端に少ないのが特徴である。日本消化器外科学会認定施設の代表者は男性が966名に対し、女性はわずか7名(0.7%)に過ぎず、女性が組織をマネージメントする立場に就くことは容易ではない。
執刀した手術の数や手術難易度を経験年数別に比較
研究グループは、これらの問題の解決の糸口として、女性外科医の手術修練に着目した。日本では女性外科医の手術トレーニングに関して詳細な検討はなされたことがなかった。諸外国では研修期間中の男女間の手術トレーニングに格差があることが明らかにされているが、全ての年代で検討されたものはない。手術経験は上長の指導の元で初めて積むことができる上、キャリアに大きな影響を与えるため、全年代で手術経験の男女間の差を明らかにすることは、指導的立場に女性が立てない理由を考察する上で重要な意味を持つという。
研究では日本の外科医が行った手術の95%以上が収録されている大規模なナショナルデータベースであるNational Clinical Databaseを用いて、女性外科医が執刀した手術の数や手術難易度を経験年数別に明らかにし、男性医師との対比によって女性医師固有の問題点を明らかにすることを試みた。
手術難易度が高いほど男女格差が顕著、経験年数の増大とともに男女差が拡大
6術式(胆嚢摘出術・虫垂切除術・幽門側胃切除術・結腸右半切除術・低位前方切除術・膵頭十二指腸切除術)における外科医1人あたりの執刀数を男女間で比較した結果、全ての術式で女性外科医は男性外科医より執刀数が少ないことが判明した。格差は手術難易度が高いほど顕著であり、経験年数の増大とともに拡大する傾向にあった。消化器外科に指導的立場の女性が極端に少ないのは、外科手術のトレーニングの機会が均等に与えられていないことが主たる原因であると考えられたという。
今回の研究から、手術執刀機会において男女格差が存在していることが明らかになった。今後は得られた結果をもとに、世界共通の目標として掲げられている「持続可能な開発目標(SDGs)」の一つであるジェンダー平等と女性の能力強化が外科に浸透することが期待される。女性も一定以上の手術手技を獲得し、指導的立場で日本の外科診療を担っていくことが本来のあるべき姿である。「本研究結果が外科におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメントの実現につながることを期待している」と、研究グループは述べている。
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