一般市民、患者関係者、医療者を対象に調査
国立成育医療研究センターは7月26日、ヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用に対する認識を把握することを目的に、日本国内で一般市民、患者関係者、医療従事者の3つのグループを対象にオンラインアンケートを実施し、その結果を発表した。この研究は、同センター研究所社会医学研究部の小林しのぶ研究員、政策科学研究部の竹原健二部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Human Genetics」に掲載されている。
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近年、遺伝子分野の技術の進歩は目覚ましく、ゲノム編集技術は多くの分野で利用されるようになっている。その一方で、ゲノム編集技術の臨床利用については科学的、倫理的、社会的に解決しなければならない問題が残っている。日本にはこの技術の臨床利用を規制する法規制はなく、専門委員会による、ゲノム編集技術を用いたヒト受精胚の臨床利用の法整備に向けた議論が進められている。ゲノム編集技術の臨床利用に対する考え方は、その人の立場や取り巻く環境、またゲノム編集技術の利用目的や条件等により違いが生じると考えられる。しかしこれまで、この技術のヒト受精胚への利用に関する国民の意識調査は限られた集団で実施されたものだけだった。
研究グループは、ゲノム編集技術のヒト受精胚への臨床応用について、広く国民の態度・意識を明らかにすることが必要であると考えた。そこで、ヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用に対する幅広い国民の意見・態度を明らかにし、今後の法制化の議論の参考資料とすることを目的に、一般市民、患者関係者、医療者の3つのグループを対象にWebアンケートによる調査を実施した。
「ゲノム編集」を聞いたことがない、一般市民の52%
調査は、合計3,511人(一般市民2,060人、患者関係者497人、医療従事者954人)から回答を得た。ここでの「一般市民」は、性別・職業等問わない、18歳以上の人。「患者関係者」は、患者本人または患者家族で、18歳以上、性別は問わない。「医療従事者」は、主に遺伝医療に関わる医療者で、18歳以上で、性別は問わない。対象者には、ヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用に関する現状や課題、その論点を整理した動画を視聴してもらったうえでアンケートへの回答を依頼した。
調査の結果、「受精卵に対するゲノム編集の意味やその課題について説明ができる人」は、一般市民で6%、患者関係者で15%に留まり、ゲノム編集という用語を聞いたことがないと回答した人は一般市民の52%にのぼることがわかった。
「ゲノム編集技術の臨床利用」、どのグループでも賛否両論
また、「ゲノム編集技術の臨床利用を支持するか」に関する回答は、患者関係者では支持が高かった一方、一般市民は「どちらともいえない」という回答がやや多く、医療従事者では臨床利用に対し慎重な態度が示された。さらに、「ゲノム編集を病気などの治療以外の目的で利用する」エンハンスメントについては、すべてのグループで反対の意見が多数を占めた。
今回の調査結果は、ヒト受精胚へのゲノム編集技術の臨床利用に対する社会的な合意を図る上での重要な基礎資料となると考えられる。今後、法整備の議論を進めるうえで国民の意識の多様性を考慮し、その意見を取り入れていくことが重要だ。「国民の意見形成を支援するために、さらなる啓発や情報発信、教育資材の整備・教育的取り組みが急務となってくると考える」と、研究グループは述べている。
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・国立成育医療研究センター プレスリリース