地震被災者の復興期におけるCOVID-19パンデミックとメンタルヘルスの関連は?
熊本大学は7月22日、熊本市との共同研究により、熊本地震被災者のメンタルヘルスの問題に新型コロナウイルス感染症がもたらした社会経済的変化が影響していることを初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部健康科学講座の大河内彩子教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されている。
2016年の熊本地震は、2日間で震度7を2回記録した日本初の地震だ。また、地震発生から15か月間で4,364回の余震を観測している。このように激甚な地震が被災者のメンタルヘルスに与える中長期的影響が懸念される。人口約70万人の熊本市では、最大11万人が避難した。2020年中には熊本市内の仮設住宅から恒久住宅への転居も概ね完了し、2021年4月には熊本地震発災後5年となったが、転居後の被災者のメンタルヘルスなど、今なお被災者の状況が懸念されている。しかし、被災者のメンタルヘルスの中長期的な状況は、世界的にもほとんど明らかにされていない。また、熊本地震の復興期には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが発生した。二重災害ともいえる状況の中で、地震被災者の復興期におけるパンデミックとメンタルヘルスの関連を調査した研究はほとんどなかった。
アンケート回答で、心理的苦痛・睡眠障害・PTSDリスクと社会経済的要因との関連を解析
今回の研究では、2020年に仮設住宅を退去し、恒久住宅に移り住んだ震災被災者全員にあたる1万9,212人を対象に2020年7~12月にアンケート調査を実施。メンタルヘルスの状態、属性、住居の状況、孤独感、COVID19による活動や収入の減少などを尋ねた。メンタルヘルスの状態は、1)心理的苦痛、2)睡眠障害、3)PTSDリスクの3項目について尋ねた。1)心理的苦痛は、ケスラー抑うつ尺度(K6)を用いて評価。K6は最近1か月間に神経質、絶望的、落ち着かない、などを感じた頻度を尋ねる。K6得点が10点以上の人は心理的苦痛を有すると分類した。2)睡眠障害は、アテネ不眠症尺度(AIS-J)の日本語版を用いて評価。AIS-Jは「夜間の睡眠問題」と「日中の機能障害」の2因子から構成され、6点以上が不眠症となる。3)PTSDリスクは、PTSDの簡易スクリーニングのために開発されたPTSD3を用いて評価。PTSD3の3項目のうち2項目以上で「はい」と答えた人を熊本県や東日本大震災の調査で採用された基準により、PTSDの可能性があるとみなした。
その後、アンケートの有効回答者8,966人(女性5,135人(57.3%)、男性3,831人(42.7%)、平均年齢62.25±17.29歳(18~105歳)、65歳以上の高齢者割合53.1%)を分析対象とした。ロジスティック回帰分析を行い、メンタルヘルス問題と社会経済的要因との関連を検討した。
女性、孤独感、COVID-19による活動・収入減などがメンタルヘルスに関連
分析対象者のうち、78.9%が同居しており、56.6%が再建した自宅で生活していた。34.2%が震災前の学区を離れることを余儀なくされていた。22.2%が地域参加をしており、20.8%が孤独を感じていたという。心理的苦痛、不眠症、PTSDリスクは11.9%、35.2%、4.1%に見られた。
分析の結果、「女性である」「公営住宅に居住している」「孤独感がある」「COVID-19によって活動機会が減少した」「COVID-19によって収入が減少した」の項目で、統計的に有意に心理的苦痛、不眠症、PTSDリスクのなりやすさに関連すると明らかになった。中でも、孤独感のオッズ比は非常に高いことが明らかになった。
今回の研究結果は、性別、現在の住居、孤独感、COVID-19が復興期にある被災者のメンタルヘルスに影響を与えることを示唆している。研究グループの知る限り、同研究は、マグニチュード7を超える大地震の5年後に、長期的な精神健康問題を評価し、COVID-19関連の変化を含む関連因子を特定した初めての研究だという。同研究の成果は、震災被災者のメンタルヘルスの長期的な予後と予防対策に指針を与えるものだとしている。
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・熊本大学 プレスリリース