インターネットやスマホアプリを介したCBT-Iのプログラム、高い脱落率などの課題
京都大学は7月26日、プロンプトと呼ばれるショート・メッセージを、利用者が受容しやすいタイミングで送信することで望ましい行動を誘発する行動変容技術を用いて、不眠症の認知行動療法(CBT-I)を応用したスマートフォン向けのアプリケーション「睡眠プロンプトアプリケーション(SPA)」を開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の石見拓教授、同大学学生総合支援機構の降籏隆二准教授らと、沖電気工業株式会社、株式会社ヘルステック研究所との共同で実施したもの。研究成果は、「Journal of Medical Internet Research」にオンライン掲載されている。
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睡眠の問題は高頻度にみられ、労働者の健康において重要な問題となっている。不眠の治療として、不眠症の認知行動療法(CBT-I)は有効性が示され、諸外国のガイドラインでは推奨されているが、専門家が不足しており提供機会が限られている。こうした中で、スマートフォンアプリケーションなどのインターネットを介したCBT-Iのプログラムが開発されている。対面で専門家が治療を実施するのと同等の効果が得られることが示されているが、脱落率が高く、改良の余地があった。また、ヘルスケア領域での使用を想定した、症状が軽度の不眠を含む臨床試験での有効性は十分検討されていなかった。
個人の睡眠、ライフサイクルデータに合わせてメッセージを自動送信、労働者116人で検証
今回研究グループは、「睡眠プロンプトアプリケーション(SPA)」を開発し、睡眠の問題を自覚する労働者を対象として、SPAによる不眠の改善の有効性を検証した。
睡眠の問題を自覚している労働者116人(介入群[n=60]、対照群[n=56])を対象に、並行群間無作為化対照試験を行った。介入群には、SPA上での睡眠日誌の記録、ショート・メッセージを用いた睡眠改善プログラムを提供。ショート・メッセージは、被験者個人の睡眠データ、ライフサイクルなどに合わせて最適化された内容が各被験者のSPAに自動送信された。介入プログラムの期間は4週間。主要評価項目として不眠重症度質問票(ISI)を測定し、副次評価項目としてチャルダー疲労スケール(CFS)を測定した。主要評価項目の解析には線形混合モデルを用い、副次評価項目は独立したサンプルのt検定を用いた。ISIは、夜間の睡眠の問題、睡眠への満足度、日中への障害などに関する7項目についての得点を元に総合得点を算出し、不眠の重症度を評価する質問票だ。
介入4週間後のISI変化の違いは介入群で有意、脱落率は3.2%
組入時のISIの平均値は両群ともに9.2だったが、4週間後の平均値は介入群6.8、対照群8.0であり、ISIの変化の違いは統計学的に有意であることがわかった(P=0.03)。ISI得点が8点以上の不眠症のサブグループ解析では、ISI(P=0.01)、CFSの身体的疲労スコア(P=0.02)の有意な改善が示された。また、脱落率は介入群のうち3.2%だった。これらより、睡眠の問題を自覚する労働者を対象とした臨床試験において、SPAの有効性が実証された。
研究グループは、「SPAは労働者の睡眠問題の悪影響を軽減するために重要な役割を果たす可能性がある。今後は、年齢層や文化的背景が異なる被験者を対象として、さらに研究を続ける必要がある」と、述べている。
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