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卵巣がん初回手術後の腹腔内再発、「肥満」が独立した予後因子-名大

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2022年07月26日 AM09:55

大規模な患者追跡予後調査データと統計モデルを用いて解析

名古屋大学は7月21日、卵巣がん初回手術後の腹腔内再発において、肥満が独立した予後因子となることを大規模な患者追跡予後調査と統計モデルを用いて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科産婦人科学の伊吉祥平大学院生、吉原雅人病院助教、梶山広明教授、同生物統計学の江本遼特任助教、松井茂之教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Obesity」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

卵巣がんは、婦人科腫瘍領域における予後不良ながん腫の一つだ。自覚症状に乏しく検診手法も確立されていないため進行期で見つかることが多く、貯留した腹水を介してがん細胞が直接転移し、腹膜播種の状態で発見される例も多く存在する。この際、卵巣がん細胞は大網や腸間膜をはじめとする脂肪細胞に富んだ組織への高い選択性を示すことが知られている。基礎研究から脂肪細胞は腹膜播種巣において、がん細胞に脂肪酸としてエネルギーを提供したり、がん細胞の増殖に優位ながん微小環境を形成したりするなどして、卵巣がん細胞の増殖をサポートすることが明らかとされている。一方で実際の臨床データを用いた臨床研究では、肥満が予後に影響しないとする報告も多く見られ、専門家の間でも意見が分かれていた。また、最近では卵巣がんの予後に与える肥満の影響は卵巣がんの進行期によって異なるとする報告もされるなど、より詳細な解析が求められていた。

研究グループは以前より、卵巣がんの腹膜播種における「土壌」となる腹腔内環境と、「種」となるがん細胞との関係性に着目した研究を展開している。今回の研究では、腹腔内に潜伏するがん細胞から再発が起こる際に腹腔内の脂肪組織がどのような影響を与えるのかを、大規模な患者追跡予後調査と多角的な統計学的調整手法を用いて明らかにした。

研究では、名古屋大学医学部附属病院を中心とした東海卵巣腫瘍研究会による大規模患者追跡予後調査を元に、東海地方で約35年に渡って集められた総計約5,000人にのぼる悪性卵巣腫瘍患者データを使用。腹腔内播種を一度きたしたIIB期~IIIC期の上皮性卵巣がん患者のうち、目に見える病変の完全切除(R0)が達成された症例を対象とした。同研究の項目に該当した280例を診断時のBMIをもとに高BMI群(≧25, n=37)、中BMI群(18.5≦<25, n=201)、低BMI群(BMI≦18.5, n=42)に分類し、一般的な全生存期間や無増悪生存期間に加えて、腹膜特異的無再発生存期間を解析することで、腹腔内に潜伏する卵巣がん細胞からの再発における肥満の影響を調べた。

腹膜特異的無再発生存期間・全生存期間、中BMI群より高BMI群で有意に短い

その結果、腹膜特異的無再発生存期間と全生存期間ともに、中BMI群に比べて高BMI群の方が有意に短くなることがわかった(それぞれp=0.028、0.018 HR=1.87、1.95)。また腹膜特異的再発後生存期間や腹膜特異的無再発間隔には、各BMI群で有意な差は見られなかった。

多変量解析では、pT3の病期分類と腹水細胞診陽性に加えて、肥満が独立した予後因子として特定された。一方、再発部位の分布を調べたところ、これらの2つのグループ間で再発部位の分布に有意差は確認されなかった。これらの結果は、潜伏しているがん細胞からの再発において、腹腔内環境を構築する脂肪組織が腫瘍促進的に働き、その増殖をサポートしていることを示唆する結果だとしている。

脂肪組織、難治性卵巣がんの新たな治療標的となる可能性

今回の研究成果は、卵巣がん患者の診断時BMIが初回手術時に完全切除が達成された症例において、再発を予測する因子となりうることを示したものであると同時に、脂肪組織をターゲットとすることが難治性卵巣がんの新たな治療標的となる可能性を示唆するものであり、新たな治療戦略の確立につながることが期待される、と研究グループは述べている。

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