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嚢胞性線維症、過剰な炎症応答にスプライシング異常の関連を示唆-熊本大ほか

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2022年07月25日 AM11:09

過剰な炎症応答で呼吸不全に至る嚢胞性線維症、詳細な機序は不明

熊本大学は7月21日、遺伝性肺疾患である嚢胞性線維症(Cystic Fibrosis;CF)の過剰炎症の原因追求に取り組み、抗炎症機能を持つ膜タンパク質SIGIRR遺伝子の連結異常(mRNAスプライシング異常)が、ウイルス感染時の炎症調節の破綻を引き起こし、過剰炎症の原因の一端を担うことを世界で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部(薬学系)の首藤剛准教授、崇城大学薬学部の首藤恵子講師らの研究グループによるもの。研究成果は「International Journal of Molecular Sciences」誌に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

CFは、全身の上皮膜細胞に発現するイオンと水の輸送を調節するCFTR遺伝子の変異により発症する遺伝性疾患である。CFTRの欠損または機能不全により細胞内外環境が著しく変化し、その患者の多くは慢性的な細菌・ウイルス気道感染による持続的な炎症と過剰な粘液貯留、およびこれらの症状に伴う気道閉塞を呈し、若年で呼吸不全により死に至る。CF患者は、ウイルス感染などをきっかけとして過剰な炎症応答が起きることで、病態が悪化することが問題とされているが、その詳細な機序は明らかになっていなかった。今回、研究グループは、抗炎症機能を持つ膜タンパク質SIGIRRに着目し、CF気道上皮細胞におけるSIGIRRの発現や機能の調節機構に着目した研究を行った。

抗炎症機能を持つ膜タンパク質SIGIRRの発現量低下に伴ってIL-37b応答性が低下

研究グループは、CFが過剰な呼吸器炎症を起こす点に着眼し、正常またはCF由来気道上皮細胞におけるSIGIRR発現とそのリガンドであるIL-37bの抗炎症作用に関して検討を行った。正常およびCF気道上皮細胞株における定常状態のSIGIRR発現を比較したところ、CF細胞株においては、SIGIRRタンパク質の細胞膜上発現が、正常細胞と比較し著しく低下していた。また、SIGIRRタンパク質の細胞膜上特異的な発現低下は、CF由来初代培養気道上皮細胞においても認められた。また、CF細胞株におけるウイルス感染刺激によって引き起こされるサイトカインIL-8の産生は、SIGIRRリガンドIL-37b処理により抑制できなかったことから、CF細胞株では、SIGIRR膜上発現量低下に伴うIL-37b応答性の低下が引き起こされ、抗炎症作用が認められないと考えられた。

低分子量化したSIGIRRタンパク質と特定の領域が脱落した異常なmRNAが高発現

次に、CF特異的なSIGIRR膜上発現低下のメカニズムとその意義の解明を目的とし、種々の検討を行った。まず、正常およびCF気道上皮細胞におけるSIGIRRタンパク質発現の詳細解析を行ったところ、CF細胞では、糖鎖修飾を受けていない正常型SIGIRRタンパク質よりも約10kDa分子量が低いSIGIRRタンパク質(low-)が多く発現していた。そこで、SIGIRRmRNAの発現パターン解析を行ったところ、CF細胞ではSIGIRR遺伝子の特定の領域が脱落した異常なSIGIRR(Δ8-)の発現量が高いことが明らかとなった。

SIGIRRのスプライススイッチがCF呼吸器炎症を増悪させる可能性

さらに、さまざまな検討の結果、1)Δ8-SIGIRRタンパク質は、CF細胞に多く存在するlow-SIGIRRタンパク質と同程度の分子量であること、2)Δ8-SIGIRRは、それ自身、細胞膜上に発現せず細胞内にとどまること、3)Δ8-SIGIRRの過剰発現は、正常型SIGIRRの細胞膜上の発現量を低下させ、IL-37bによる炎症抑制作用を阻害することがわかった。これらの結果より、CF特異的なSIGIRR膜上発現の低下とそれに伴う炎症抑制性IL-37b-SIGIRR経路の破綻(減弱)に、Δ8-SIGIRRによるWT-SIGIRR(野生型・正常なSIGIRR)発現・機能抑制作用が関与することが解明された。今回の結果は、SIGIRRのスプライススイッチがCF呼吸器炎症を増悪化することを示唆する初めての報告であるという。

研究グループはこれまでにも、CF特異的なmRNAスプライシング異常が、亜鉛輸送トランスポーターZip2のmRNAの連結調節に影響し、粘液産生異常を引き起こすことを明らかにしてきた。「この研究は、以前の成果と合わせて考えることで、世界的に有名な遺伝性疾患CFの病態の根本的な理解につながる研究成果である」と、研究グループは述べている。

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