DOCK8エキソン上の遺伝子多型に注目、アトピー性皮膚炎患者の臨床検体を用いて検証
九州大学は7月16日、遺伝子DOCK8に注目することでアトピー性皮膚炎の発症および重症化に関わる機能的な遺伝子多型が存在することを発見したと発表した。この研究は、同大生体防御医学研究所の福井宣規主幹教授、國村和史助教、同大学院医学研究院皮膚科学分野の中原剛士教授、山村和彦助教の研究グループによるもの。研究成果は、「Allergy」にオンライン掲載されている。
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アトピー性皮膚炎はかゆみを伴う慢性炎症性の皮膚疾患であり、国民の7~15%が罹患しているとされている。かゆみは学業・仕事の生産性低下や睡眠障害を引き起こし、生活の質を著しく損なうことが問題視されている。近年、かゆみを引き起こす物質としてIL-31が発見され、IL-31の産生レベルとアトピー性皮膚炎の重症度が相関することや、IL-31受容体をターゲットとした抗体製剤がアトピー性皮膚炎患者のかゆみを抑えることがわかり、注目を集めている。
これまでに福井宣規主幹教授らは、分子DOCK8を欠損したヒトやマウスにおいてT細胞でのIL-31産生が亢進し、重篤なアトピー性皮膚炎を自然発症することに着目し、T細胞で発現する遺伝子をDOCK8の有無で比較・解析することで、IL-31の産生に転写因子EPAS1が重要な役割を演じることを見出している。また、刺激を受けた細胞内ではEPAS1は細胞質から核内に移行していく。DOCK8が無いとこの核移行が亢進することから、DOCK8はEPAS1を細胞質に繋ぎ止める役割を担っていることを明らかにしてきた。しかし、アトピー性皮膚炎の患者全員がDOCK8を欠損しているわけではなく、患者と健常人の間でDOCK8タンパク質の発現量に差はなかった。そこでDOCK8エキソン上の遺伝子多型に注目し、アトピー性皮膚炎の発症や重症化と関連性があるかどうか、アトピー性皮膚炎患者の臨床検体を用いて検証した。
DOCK8遺伝子多型rs17673268、重症患者はTT遺伝子型が多い
今回の研究では、20歳以上の日本人のアトピー性皮膚炎患者46人および健常人46人を対象に、DOCK8の全エキソン(48個)におけるゲノム配列をダイレクトDNAシーケンシングによって解読し、比較検討。その結果、DOCK8エキソン2上に存在する一塩基多型、rs17673268がアトピー性皮膚炎患者と健常人の間で大きく異なっていることを見つけた。このDOCK8遺伝子多型において、大部分の人はシトシン(C)塩基を持っているが、アトピー性皮膚炎患者ではチミン(T)塩基に置き換わっている頻度が有意に高いことがわかった。
また、両アレルがT(TT遺伝子型)である頻度は健常者11%に対しアトピー性皮膚炎患者では28%と有意に高くなっており、CC遺伝子型と比べて発症リスクの上昇を示した(オッズ比,4.00;95%信頼区間,1.11-12.87)。
次に、この遺伝子多型とアトピー性皮膚炎の重症度との関連性を解析。IGA(Investigator Global Assessment)やEASI(Eczema Area and Severity Index)と呼ばれる重症度スコアを用いてアトピー性皮膚炎患者群で遺伝子多型を比較した結果、重症の皮膚炎患者(IGAスコア4点)は、CT遺伝子型あるいはTT遺伝子型でしか認められなかった。アトピー性皮膚炎、特に重症の皮膚炎患者では、DOCK8のrs17673268部位がTT遺伝子型である頻度が高い。この遺伝子多型は、かゆみを引き起こすIL-31の発現を制御する転写因子EPAS1の核移行性に関与している。さらに、中等症以上の患者をEASIスコア(高いほど重症)で比較したところ、CTよりTT遺伝子型でEASIスコアがより高く、重症化している患者が多いことがわかった。
DOCK8遺伝子多型、EPAS1核移行制御でIL-31発現に関与し、発症や重症化につながっている可能性
このrs17673268におけるCからTへの一塩基置換は、アラニンからバリンへのアミノ酸置換(ミスセンス変異)をもたらす(NM_203447.3:c.1790C>T;p.Ala597Val)。そこで、各々の点変異体を発現させた細胞株を作製し、EPAS1の核移行を調べる実験を行った。その結果、TT遺伝子型に該当する遺伝子ベクターを発現した細胞株では、CC遺伝子型に比べてEPAS1の核移行が亢進することを見出した。
したがって、このDOCK8遺伝子多型は機能的な多型であり、EPAS1の核移行を制御してIL-31発現に関与することで、アトピー性皮膚炎の発症や重症化につながっている可能性が示唆された。
DOCK8遺伝子多型、他の皮膚疾患の病態形成にも関与の可能性
IL-31の産生に関わるDOCK8およびEPAS1発見に伴い、さまざまなことがわかってきた。今回の研究では、DOCK8遺伝子多型のrs17673268がアトピー性皮膚炎の発症素因や重症化リスクに関連する機能的な遺伝子多型であることが明らかになった。今回の研究成果は比較的小規模な人数で得られたものであるため、日本人以外の国籍も含めたより大規模な集団での検討が今後重要になる。さらなる検討を行うことで、この遺伝子多型がアトピー性皮膚炎患者の抗IL-31受容体抗体への治療反応性予測や層別化医療に応用できる可能性があるという。
また、IL-31はアトピー性皮膚炎だけでなく、結節性痒疹や乾癬、慢性蕁麻疹などの皮膚疾患でも上昇することが報告されているため、今回のDOCK8遺伝子多型はこれら皮膚疾患の病態形成にも関与しているかもしれないという。今後も、さまざまなアレルギー疾患の病態メカニズムを解明するべく、研究を続けていく、と研究グループは述べている。
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・九州大学 研究成果