外注メインから「院内完結」へ、ゲノム医療の加速に不可欠
東京大学医学部附属病院(東大病院)は7月19日、国内の医療機関として初めて、保険収載されているがんゲノムプロファイリング検査に係わる検査室の第三者認定(ISO 15189拡大認定)を取得し、院内完結型の実施体制を構築したことを発表した。この研究は、東大病院の瀬戸泰之病院長(胃・食道外科教授)、同検査部の矢冨裕部長/教授、同病理部の牛久哲男部長/教授、同企画情報運営部の大江和彦部長/教授、同ゲノム診療部の織田克利部長/教授らの研究グループによるものだ。
画像はリリースより
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2019年6月、日本でがんゲノムプロファイリング検査が保険適用となり、指定された医療機関(がんゲノム医療中核拠点・拠点・連携病院)において検査を実施する体制となっている。現在までに3万人を超える患者に対して保険診療としてがんゲノムプロファイリング検査が行われているが、全ての検査が海外の検査機関もしくは国内の限られた検査機関(衛生検査所)での外注検査として行われてきた。そのため、エキスパートパネル(専門家会議)では検査機関の解析レポートから得られる情報にしかアクセスできず、レポート作成前のゲノム解析データを自ら確認することができなかった。
現在、造血器腫瘍を対象とした新規のがんゲノムプロファイリング検査の開発や、全ゲノム解析研究も進められており、日本のゲノム医療を加速させるうえで、医療機関が自ら院内完結の形で検査を実施できる体制を確立していくことが望まれている。ゲノム解析の全行程を管理し、ゲノム解析データを直接確認し、結果を還元することができる次世代シークエンサー(NGS)検査室を大学の医療機関において自ら所有することが今後不可欠になってくると見込まれる。
「OncoGuideTM NCCオンコパネル システム」に係る拡大認定を取得
東大病院は今回、保険収載されているがんゲノムプロファイリング検査に係わる検査室の第三者認定(ISO 15189拡大認定)を取得し、院内完結型の実施体制を構築した。ISO 15189は、検査室の組織運営と技術的な能力を規定した国際的な規格。国内における第三者機関である日本適合性認定協会がISO 15189の規格に基づいて検査室の能力を評価する仕組みとなっている。これまで臨床検査室の技術能力については一般的な臨床検査(血液学的検査、生化学的検査、免疫学的検査、微生物学的検査など)が基幹項目、遺伝子関連・染色体検査が非基幹項目となっており、がんゲノムプロファイリング検査等のNGSを用いたゲノム関連検査に関する認定は限られたものだった。
同院の遺伝子検査室は以前より第三者認定を受けていたが、今回「OncoGuideTM NCCオンコパネル システム」の項目について拡大認定を取得。保険適用下のがんゲノムプロファイリング検査の項目で拡大認定を受けた初の医療機関となった。
東大発、多機能型がんゲノムプロファイリング検査「Todai OncoPanel」も実施
また、同院の検査室では、東京大学が独自に開発した「Todai OncoPanel検査」(DNAパネルのみでなくRNAパネルも搭載した多機能型のがんゲノムプロファイリング検査)も実施しており、先駆的ながんゲノム医療の提供にも努めている。
同院は、がんゲノム医療中核拠点病院に指定されており、ゲノム医療に関わる人材育成や研究開発も積極的に行っている。同大独自の高性能のがんゲノムプロファイリング検査Todai OncoPanelの開発もその1つだ。
Todai OncoPanel は保険診療のがん遺伝子パネル検査と比較して、搭載遺伝子数が多く、RNAの解析により効率的に融合遺伝子を検出でき、遺伝子発現量の検討も可能という特徴がある。また腫瘍組織と正常血液検体をペアで解析するため、腫瘍組織のみを調べる検査と比較してより正確なゲノム情報を得ることが可能。2020年1月まで先進医療Bとして200例を含め、500例以上で解析した実績があり、現在は自由診療として検査を行っている。
他院からの検査受託を開始するとともに、教育・人材育成の場も提供
日本のゲノム医療体制は、国民皆保険制度のもとで均てん化が図られ、ゲノム解析情報も国立がん研究センター内に設置されているがんゲノム情報管理センターに集約されている。しかし、日常診療においては検査機関における解析レポート作成前の生データを確認することができず、データに関するさまざまな疑問点が解決されないジレンマがあった。今回、院内完結型の保険診療がんゲノムプロファイリング検査の実施体制を初めて構築したことで、検体の品質チェックからシークエンス解析結果まで、レポート作成前のデータをリアルタイムに直接確認することが可能となる。
同院は今後、他院からのOncoGuideTM NCCオンコパネル システムを用いた検査の受託を開始し、保険診療のがんゲノムプロファイリング検査の提供体制を拡充するためのロールモデルを提示する予定。また、エキスパートパネルの議論を深め、患者への還元に貢献していくとともに、がんゲノムプロファイリング検査の全体像を実地で学ぶ教育・人材育成の場も提供するという。同院は、「今後ますます発展していくゲノム解析技術の臨床実装を着実に日本において進めていけるよう、この院内完結型NGS検査室の活用を推進していく」と、コメントしている。
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・東京大学医学部附属病院 プレスリリース