CLIに対する細胞移植による現行療法、非反応群の存在や自家骨髄採取などの課題
名古屋大学は7月15日、重症虚血肢(CLI)に対する皮下脂肪由来間葉系前駆細胞を用いた血管新生療法の安全性と有効性を検証した臨床試験の結果を発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学の室原豊明教授、清水優樹助教、先進循環器治療学寄附講座の柴田玲特任教授らの研究グループが全国7施設と共同で実施したもの。研究成果は、「Angiogenesis」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
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CLIは、末梢性動脈疾患(PAD)の中でも最も重症な病態(Fontaine分類:Ⅲ度・Ⅳ度)である。CLIに対しては、生活習慣の改善、薬物療法、血行再建術などの集学的治療が適応となるが、それでもしばしば四肢の切断に至る難治性疾患だ。切断を余儀なくされたCLI患者は、生活の質(QOL)が著しく低下するだけでなく、心血管合併症による死亡率も高くなることが報告されている。
2002年に骨髄単核球(BM-MNC)を用いた細胞移植による血管新生療法(TACT)試験が報告されて以来、細胞移植による血管新生療法は世界中のさまざまな虚血性疾患に対して有効であることが証明されている。しかし、その後の長期解析の検討により、同治療においては特定の非反応群の存在が明らかとなっている。また、約1,000mLの自家骨髄を採取するプロトコールは、これらの患者にとって身体的負担となる処置であるという臨床的課題が残されていた。
脂肪吸引法により脂肪を採取し、分離した脂肪組織由来間葉系前駆細胞を用いる治療法
ヒトの皮下脂肪組織には、BM-MSCと同様の性質を持つ間葉系幹細胞(MSCs)が存在し、多系統の細胞に分化する能力を有することが発見されて以降、動物実験などからもさまざまな病態モデルにおける組織再生に寄与することが証明されてきた。そこで研究グループは、この脂肪由来幹/再生細胞(ADSCsまたはADRCs)に着目し、重症虚血肢患者への血管新生療法のための新しい細胞源として治療開発を進めてきた。ADRCは、比較的容易に、初代細胞として、あるいは複数回継代培養した細胞として大量に入手することが可能である特徴を有する。さらに、皮下脂肪組織の採取は、局所麻酔または全身麻酔下で脂肪吸引などの確立された技術で行うことができ、骨髄採取よりも身体的負担の少ない処置と考えられている。
自己ADRC移植のCLIに対する有効性/安全性を多施設試験で検討
過去の同大からの報告を含めたこれまでの先行研究により、CLIに対するADRC移植による治療的血管新生は、サンプルサイズが小さく単施設試験という限られた条件下では安全である可能性が報告されていた。しかし、自己ADRC移植がCLI患者に対して安全で、実行可能で、効果的であるかという臨床的検証を「多施設試験」では実施されていなかった。
そこで、CLI患者を対象に、非培養自己ADRCを移植する血管新生療法の普遍的な安全性、実施可能性、および有効性を検証するために、同大が統括機関となり、日本の異なる地域の全国8施設(名古屋大学、久留米大学、獨協医科大学、金沢大学、聖マリアンナ医科大学、福岡徳洲会病院、信州大学、千葉大学)で、「TACT-ADRC多施設試験」を実施した。
開発した治療法による切断回避率の向上、潰瘍縮小、歩行距離の大幅延長を確認
全国6施設において、29症例(34対象肢)に対して同治療が施行され、全例で治療を完遂することができた。主要評価項目の安全性評価として、周術期および観察期間6か月の間で、死亡者および細胞移植関連有害事象は認められなかった。主要評価項目の有効性判定として、室原教授らの研究グループによる自己骨髄単核球細胞(MNC)を用いた血管新生治療の最初の研究である「TACT-bone marrow(BM)試験」との比較を行うと、従来の血管新生療法を受けた患者の総死亡率は4%(47人中2人が死亡)、足指切断の救済率は75%(20人中15人が救済)と報告であったのに対し、TACT-ADRC試験では、6か月後の総死亡率0%(29人中の死亡者0)、大腿切断回避率94.1%(34対象肢中32肢が救済)という同等以上の良好な結果が得られた。
また、副次評価項目として、QOLスコアの数値評価尺度の改善(治療反応率:90.6%、改善度平均:治療前6→治療6か月1)、潰瘍サイズの縮小(治療反応率:83.3%、改善度平均:治療前317mm2→治療6か月109mm2)、下肢病変の患者における6分間歩行距離の延長(治療反応率:72.2%、改善度平均:治療前255m→治療6か月369m)が認められた。
これらの結果から、自己ADRCの移植は、多施設共同研究において、重大な有害事象がなく良好な生存率を維持し、安全かつ効果的に血管新生を達成することができることが示された。
術前プロトコールを簡略化、病期早期の患者での検討を予定
今回の研究から、CLI患者の治療戦略として、同治療が治療選択肢の一つとなりうることが示された。今後研究グループは、同臨床研究で実施した術前プロトコールを簡略化(全身スクリーニング検査の簡素化)し、適切な時期を逃さず低コストで実施できるように選択基準を改善していく予定。また、同治療を病期早期の患者(Fontaine分類Ⅱb)へ提供した際の治療効果の検証を実施した後、適応拡大に取り組みたいと考えているという。「他の従来療法(血管形成術やバイパス術など)との併用療法でも実施可能となるように、本治療提供の拡充を目指していきたい。将来的には、先進医療を含めた保険収載に向けての手続きを進めて行きたい」と、研究グループは述べている。
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