患者186人のデータで、移植前CT評価の大腰筋の骨格筋量・脂肪変性が移植後の予後に及ぼす影響を検討
京都大学は7月12日、従来知られていた造血細胞移植特異的併存疾患指数(HCT-CI)高値などに加えて、同種造血幹細胞移植前における骨格筋の質的変化が移植後の予後に影響を及ぼすことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院リハビリテーション部の濱田涼太理学療法士、検査部・細胞療法センター・血液内科の新井康之助教(院内講師)、同大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学の近藤忠一非常勤講師、髙折晃史同教授(細胞療法センター長)、リハビリテーション部の松田秀一部長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Transplantation and Cellular Therapy」にオンライン掲載されている。
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骨髄移植や臍帯血移植などの同種造血幹細胞移植は、白血病など難治性血液疾患(血液がん)において、治癒を目指すことが出来る治療法。がん細胞を攻撃する化学療法や感染症に対する抗生物質などの進歩や、リハビリテーションを始めとしたさまざまな支持療法によって移植成績は劇的に改善されつつある。さらなる予後改善のため、「筋肉」に着目した研究が最近多くされている。これは、移植までの長い治療過程において、いわゆるがん悪液質の状態になり、筋肉の状態が悪い患者が多いためだ。実際、骨格筋量の減少は、移植後の生存に影響を及ぼすことが複数の研究グループから報告されている。しかし、このような骨格筋量の減少はコンピュータ断層撮影(CT)などを用いて評価されるため、脂肪変性が進行した「質の悪い」骨格筋においては骨格筋量が過大評価され、正確な評価が出来ていない可能性がある。したがって、骨格筋量と脂肪変性を区別して評価を行う必要があるが、その方法は確立されておらず、また評価された骨格筋の脂肪変性が移植後の生存にどのような影響を及ぼすかもわかっていない。
同研究は、京都大学医学部附属病院で治療を受けた同種造血幹細胞移植後の患者186人の移植前のコンピュータ断層撮影(CT)を用いて、大腰筋の骨格筋量および脂肪変性が移植後の予後に及ぼす影響を検討した。
脂肪変性進行、移植後の全生存期間の低下に影響
研究の結果、従来知られていた造血細胞移植特異的併存疾患指数(HCT-CI)高値などに加えて、骨格筋における質の悪さを意味する脂肪変性進行が、移植後の全生存期間の低下に影響を及ぼすことが明らかになった。
さらに、非再発死亡率に着目したところ、「骨格筋の脂肪変性の進行」に加えて「移植前の6分間歩行距離(運動耐容能の指標)の減少」が存在している場合、非再発死亡率が複合的に増加することが明らかになった。
移植前・骨格筋評価の重要性を示唆
今回の研究によって、移植前の骨格筋の状態のなかでも質的変化(脂肪変性の進行)が移植後の生存に影響を及ぼす指標であることが示された。同研究は移植前における骨格筋の脂肪変性と予後の関係性を示した初めての研究であり、移植前の骨格筋評価の重要性を示唆している。今後は骨格筋の質を改善させるためのリハビリテーションを含む集学的治療戦略の開発が期待される、と研究グループは述べている。
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