潰瘍性大腸炎における「難治性潰瘍」の組織再生を促す治療法は存在しなかった
東京医科歯科大学は7月7日、難治性潰瘍を伴う潰瘍性大腸炎の患者に対し、「自家腸上皮オルガノイド」の移植を行う再生医療の第1例目を実施したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野の岡本隆一教授、同大学術顧問・副学長で高等研究院の渡辺守特別栄誉教授らと、同大大学院医歯学総合研究科消化器病態学分野の水谷知裕講師(培養チーム・リーダー)、同大再生医療研究センターの清水寛路助教(臨床チーム・リーダー)、光学医療診療部部長の大塚和朗特別診療教授(内視鏡チーム・リーダー)、光学医療診療部福田将義助教(内視鏡処置担当)を含む研究グループによるもの。
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同研究は、日本医療研究開発機構(AMED)・再生医療実現拠点ネットワークプログラム・疾患・組織別実用化研究拠点(拠点B)「培養腸上皮幹細胞を用いた炎症性腸疾患に対する粘膜再生治療の開発拠点」およびAMED・再生医療実用化研究事業「自家腸上皮幹細胞移植による炎症性腸疾患の粘膜再生治療に関する研究」の支援のもとで行われ、自家腸上皮オルガノイド移植の安全性(主要)と効果の検討を目的とするもの。
潰瘍性大腸炎は消化管に慢性の炎症を起こす指定難病で、国内に22万人以上の患者がいると推計されている。近年の治療の進歩の結果、炎症を制御し症状を抑えるためのさまざまな治療を選択することが可能となったが、病状を寛解に保つためには症状や炎症だけでなく、粘膜治癒を達成することが重要だ。しかし、さまざまな治療を行っても腸の修復再生が滞る「難治性潰瘍」のため、粘膜治癒を達成できない潰瘍性大腸炎患者に対し、組織再生を促す治療の選択肢は存在しなかった。
患者から採取した少量の粘膜組織から「自家腸上皮オルガノイド」を樹立、内視鏡で移植する技術も開発
そこで研究グループは、粘膜上皮再生の起点となる腸上皮幹細胞を含むオルガノイド(=ミニ臓器)を潰瘍性大腸炎患者自身から採取した少量の組織から樹立し、大量のオルガノイドに増やした上で、内視鏡を使って移植する技術を開発した。さらに同技術を用いて、潰瘍性大腸炎患者の難治性潰瘍に対し、自家腸上皮オルガノイドを移植する臨床研究を開始した。
臨床研究計画に基づき、難治性潰瘍を伴う潰瘍性大腸炎患者より内視鏡を使って少量の粘膜組織を採取し、患者自身の腸上皮幹細胞を含む自家腸上皮オルガノイドを樹立。これを定められた手順・期間に計画通り培養することにより、必要な規格を備え、かつ移植に必要な量まで自家腸上皮オルガノイドを増やすことに成功した。
また、あらかじめ定めた方法で、内視鏡を用いて標的病変へ自家腸上皮オルガノイドを送達し、局所に留めるための一連の処置を完了した。引き続き、移植後の経過観察を行っていくとしている。
クローン病など、他の消化管難病に対するオルガノイド医療の開発にも期待
今回の研究で、自家腸上皮オルガノイドを潰瘍性大腸炎患者に移植するFirst-in-Human臨床研究が、世界で初めて実施された。これは、革新的な技術により培養されるオルガノイド(=ミニ臓器)を移植治療に用いた世界初の実施例でもあり、さまざまな臓器におけるオルガノイド医療の実用化に道を開く第一歩となる成果を達成したと言える。今後、同技術を用いた2例目以降の移植が計画されており、潰瘍性大腸炎に対する自家腸上皮オルガノイド移植の安全性(主要)および効果が明らかになることが期待される。
「本技術を応用・展開することによりクローン病など、他の消化管難病に対するオルガノイド医療の開発が進むことも期待できる」と、研究グループは述べている。
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