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院外心停止、病院到着前に波形変化の可能性が高い患者を予測するスコア開発-名大ほか

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2022年07月11日 AM10:55

マルチタスクをこなす救急隊が、OHCA患者の心拍波形変化を認識するには?

名古屋大学は7月7日、(OHCA)患者における病院到着前の「非ショック適応リズム」から「ショック適応リズム」への心拍波形変化の予測因子を同定し、予測スコアリングシステムを開発したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科生物統計学の江本遼特任助教、松井茂之教授、同大医学部附属病院先端医療開発部の西田一貴病院助教、広島大学救急集中治療医学の錦見満曉助教(研究代表者、名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学研究員兼任)、菊谷和也助教、大下慎一郎准教授、志馬伸朗教授、京都大学大学院医学研究科予防医療学分野の石見拓教授、The Feinstein Institutes for Medical Research, Laboratory for Critical Care Physiology の Muhammad Shoaib研究員、林田敬研究員らの研究グループによるもの。研究成果は「Journal of the American Heart Association」に掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

蘇生科学の分野で顕著な進歩が見られるにもかかわらず、OHCA患者の中でも初期波形が非ショック適応リズムである場合の生存率は依然として低く、予後の改善のため病院到着前のより良い管理戦略が必要とされている。

病院到着前の搬送中の救急医療サービス(EMS)では、心停止患者はその転帰が一刻を争うため即時かつ集中的な治療が必要とされる一方、救急隊員は心肺蘇生(CPR)を行いながら、医療情報の入手と記録、薬物治療を適時に行うための血管アクセスの確保、必要時の挿管による気道確保、そして病院への迅速な搬送などのマルチタスクに従事しなければならず、患者のみに集中することが難しいという問題がある。これらの複雑な業務を同時にこなすには高度な連携が必要であり、その結果、ショック適応リズムへの波形変化を認識するなどの重要な業務が優先されなくなる可能性がある。

救急隊の任務の中でも特に、病院到着前に非ショック適応リズムからショック適応リズムに自発的な波形変化した場合の即時除細動は、緊急性が高く重要な任務だ。過去の研究では、救急蘇生活動中に自発的な波形変化をした場合、20分以内に除細動を行えば神経学的に良好な結果が得られる可能性が高いことが示されており、自発的な波形変化を迅速に特定することが重要であると考えられる。心肺蘇生法のガイドラインでは2分ごとの定期的な波形チェックが推奨されているが、心拍変化の迅速な特定に関する取り組みはこれまで多く行われていなかった。

もし、救急隊がこのような波形変化を予測できれば、迅速な除細動の準備が可能になり、また、自発的な波形変化の予測によって、より予後のよい心停止患者をトリアージすることができる。しかし、OHCA患者における自発的な波形変化の予測因子を特定する研究はほとんど行われておらず、病院到着前に波形変化を予測するツール/手法は現在のところ存在しない。

JAAM-OHCA解析で、「バイスタンダーによるAED」など関連する因子を同定

研究グループは、EMSがOHCA患者に自発的な波形変化があった場合に直ちに除細動を行うための準備を支援するため、OHCA患者の自発的な波形変化の予測因子を特定し、予測スコアの開発を行った。

具体的には、日本救急医学会多施設共同院外心停止レジストリ(JAAM-OHCA)(全国の救命救急センターまたは救命救急センターを有する病院125施設に搬送されたOHCA患者の全国前向き多施設登録)のデータ2万5,804例を用いた。同レジストリには、2014年6月~2017年12月までに登録されたOHCA患者のデータが含まれており、初回脈拍確認時に救急隊員により非ショック適応リズムの波形と判断された成人OHCA患者を研究対象とした。

OHCA患者の自発的な波形変化の予測因子の特定は、Cox回帰モデルを用いた多変量解析により行われた。結果変数は、初回の脈拍チェックからショック可能な波形変化までの時間とし、波形変化前に病院に到着した患者は打ち切り症例として扱われた。説明変数はEMSが現場に到着するまでに評価可能なものを対象とした。

解析の結果、自発的な波形変化のハザードが有意に増加する変数として、目撃者の存在、初期波形の無脈性電気活動()、バイスタンダーによるAEDがあること、CA(心停止)の原因が非外因性であることが同定された。逆に、65歳以上、女性、バイスタンダーによる心臓マッサージ、CAの原因が外傷や窒息であることは、自発的な波形変化のハザードが有意に低下することと関連していた。バイスタンダーによる人工呼吸は、自発的なリズム変化の可能性に統計的に有意な影響を与えなかった。また、高度気道管理およびエピネフリン注射の変数を時間依存性の共変量として含めた感度分析を行い、結果が大きく変わらないことを確認した。

非ショック時の病院到着前の波形変化スコアを罰則付き回帰モデルにより作成

予測スコアの開発では、対象データを分割した導出コホート(2014年6月~2016年12月の登録患者)を用いてスコアを作成し、検証コホート(2017年1月~2017年12月に登録患者)を用いてスコアの予測精度を確認した。導出コホートのデータを用いて、作成する予測モデルの妥当性および未知のデータへの予測性能を入れ子式交差検証(nested cross-validation)により確認したのち、導出コホート全体のデータを用いて非ショック時の病院到着前の波形変化スコア(Rhythm Change before Hospital Arrival for Non-Shockable、CHANSスコア)を罰則付き回帰モデルにより作成した。加えて、自発的な波形変化の可能性が高い患者と低い患者を区別できるリスク分類を作成した。

作成したCHANSスコアの予測精度はHarrellのC-indexによって評価され、その値は0.67[0.64-0.70]だった。また、提案されたリスク分類に従って分けられた2群間でのKM曲線は、検証コホートにおいて有意に異なった(log-rank検定;p<0.001)。

CA原因が窒息や外傷の場合、自発的リズム変化の確率「低」

自発的な波形変化に関連する変数のうち、「バイスタンダーによるAED」のハザード比は、他の変数と比較して特に高い結果だった(3.97 [2.67-5.89])。救急隊員到着前にAEDによる除細動を行った場合、CAに心原性の要素があることが示唆され、その場合、患者は自発的なリズム変化を起こす確率が高くなるため、この結果は臨床現場からの報告と非常に一致するものだった。

一方、CAの原因として窒息や外傷がある場合は、自発的なリズム変化の確率が低くなる。今後の研究が必要である、現時点では、上記の機序によるCAである可能性が高い患者は、自発的なリズム変化にかかわらず、(自己心拍再開)を達成できる可能性があることが示唆された。むしろ、これらの病因に対して、窒息における原因物質の緩和や、事故後の水分補給や輸血など、直接的な治療の選択肢があれば、より容易にCAを緩和できる可能性がある。

「バイスタンダーCPRの質」に関連する変数の追加が予測精度向上の鍵に

CHANSスコアの予測精度はHarrellのC-indexが約0.70という結果だった。この値は予測精度としては悪くはないが、最適なパフォーマンスを得るためにはさらなる改善が必要であると考えられる。予測モデルの予測性能を向上させるために、他の臨床変数をモデルに追加することが有効である可能性がある。今回の研究で使用したデータに含まれる変数のほとんどは、目撃者の有無、初期波形などCA患者の転帰に強く関連することが知られているものであり、PEAの電気的頻度など心臓の電気生理に直接関連する変数や、心臓マッサージにおける胸部圧迫の深さなど初回脈拍確認前のバイスタンダーCPRの質に関連する変数を追加することでCHANSスコアの予測精度はさらに向上する可能性がある。

「2分ごとの波形チェック」を患者ごとに異なる時間で行う等の新戦略構築につながる可能性

現在の心肺蘇生法のガイドラインでは、約20年前に行われたいくつかの無作為化比較試験の結果に基づいて、2分ごとの波形チェックが推奨されている。しかし、今日、使用者の疲労なしに連続心肺蘇生が可能な機械式心肺蘇生装置や心肺蘇生中にショック性のリズムを検出できる装置などの新しい蘇生技術の開発に伴い、波形チェックの間隔は依然として2分ごとが適切であるかどうかは不明なままだ。今回の結果から、患者ごとの波形変化の可能性に応じて波形チェックの間隔を変える可能性が示唆される。

例えば、リズムの波形変化の可能性が低い場合は、3分ごとなど、より少ない頻度で脈拍をチェックすることができ、脈拍チェックによる無流動時間を減らすことができる。一方、リズムの波形変化のリスクが高ければ、2分ごとよりも頻繁に脈拍を確認することでより迅速な除細動につながる。

「今回の知見を検証するためには、今回の研究によるエビデンスだけでは不十分であり、さらなる前向き研究が必要。個々の患者の波形変化の可能性に応じて、脈拍チェックの間隔を個別に設定する道が開かれる可能性があると考えられる」と、研究グループは述べている。

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