細胞同士の接着を保ったままどのように同一方向に協調的に動く?
東北大学は7月4日、ショウジョウバエを用いた研究により、上皮細胞をスムーズに集団移動させる仕組みを明らかにし、細胞のつなぎ替え(細胞接着面のリモデリング)に必要なタンパク質であるp21 活性化キナーゼ 3(pak3)を発見したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究科の上地浩之助教(現MPI Dresden)と倉永英里奈教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」電子版に掲載されている。
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上皮組織は、上皮細胞と呼ばれる細胞が密接に接着した状態で構成されている。受精卵から体が形成される過程では、上皮組織内の上皮細胞が同一方向に集団移動することで、シート状の上皮組織を折りたたみ、伸長・陥入・移動などの変形を行い、複雑な器官を作り上げる。しかし、細胞同士の接着を保ったままどのように上皮細胞が移動できるのか、どのように同一方向に協調的に動くのか、その仕組みの多くは明らかでなかった。
上皮細胞の接着面がつなぎ替わる際の収縮で、pak3がアクトミオシンの過剰反応を抑制
研究グループは、ショウジョウバエの雄の生殖器が、生殖器官を取り巻く上皮細胞の集団移動によって360度回転しながら形作られることを明らかにしていた。この過程では、上皮細胞をつなぐ接着部分でアクトミオシンが偏って集積することで、細胞同士のつなぎ替えが連続して起こり、上皮細胞が集団移動する原動力となっている。つなぎ替えの仕組みとしてわかっていたことは、①隣り合う細胞の細胞接着面にアクトミオシンが集積すると、その細胞接着面は短縮し、②やがて消失して4つの細胞が1点で接する点を形成し、③さらに、この接合点から新たな細胞接着面が、元の接着面とは垂直方向に伸張する、ということだ。今回、この細胞同士のつなぎ替えの①の過程において、アクトミオシンを集積させたシグナルが濃縮することで、異常な細胞骨格応答がおこった場合、アクトミオシンが一時的に解離して収縮を妨げることが明らかになった。
この異常な応答はpak3の非存在下によりみられることから、pak3は収縮によって過剰に濃縮されたアクトミオシン活性化シグナルを沈静化する機能を持つことが示唆された。
組織形成や、創傷治癒などの上皮修復メカニズムの理解に貢献すると期待
今回の研究から、細胞のつなぎ替えをおこすための細胞接着面の収縮は、収縮させると同時にアクトミオシンが濃縮することで異常応答して収縮を妨げていること、pak3がそのような異常応答を解消することで、細胞接着面のつなぎ替えがスムーズに起こることがわかった。上皮細胞の集団移動をスムーズに継続させる仕組みが明らかになり、組織形成や、創傷治癒などの上皮修復メカニズムの理解に貢献することが期待される。「この仕組みにより上皮細胞が集団移動することが可能となり、上皮組織が複雑な形の器官を作り上げる原動力となっていると考えられる」と、研究グループは述べている。
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