医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 医薬品開発に重要な治療標的分子、ビッグデータから高精度予測する手法を開発-九工大

医薬品開発に重要な治療標的分子、ビッグデータから高精度予測する手法を開発-九工大

読了時間:約 3分11秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2022年07月06日 AM11:00

治療標的分子の枯渇が課題となる中、迅速かつ正確な予測技術が求められている

九州工業大学は7月4日、生体分子と疾患の遺伝子発現データから、多様な疾患に対し治療標的分子(薬剤で制御することで疾患の治療につながる生体分子)を高精度で予測する機械学習手法を開発したと発表した。この研究は、同大大学院情報工学府博士後期課程情報創成工学専攻の難波里子、情報工学研究院の岩田通夫研究職員、山西芳裕教授らの研究グループによるもの。研究成果は「Bioinformatics」誌にオンライン掲載されている。


画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)

医薬品開発において、治療標的分子の同定は重要課題である。治療標的分子の同定は医薬品開発の最初の過程に相当するため、不適切な治療標的分子を選択すると医薬品開発の成功率に大きな影響を及ぼす。しかし、既存の病理学的知識から推測できる治療標的分子は限定されており、治療標的分子の枯渇が世界的な課題となっている。従来の探索手法では、遺伝子配列の変異の情報に基づき治療標的候補分子を選択していたため、候補となる生体分子が非常に多く疾患の治療に有効な治療標的分子を絞り込むのが困難だった。また、遺伝子配列の変異を持たないが疾患の病態メカニズムの観点から治療標的分子となるような生体分子を見つけることはできなかった。

また、治療標的分子は、活性化することで疾患の治療につながる活性化標的と、阻害することで疾患の治療につながる阻害標的に分けられる。従来手法では遺伝子変異の有無に依存していたため、阻害標的分子と活性化標的分子を区別した予測が困難だった。また、個々の疾患ごとに解析を行うのが一般的であり、医薬品開発に膨大な時間を要していた。そのため、膨大な生体分子の中から確実に疾患の治療につながる治療標的分子を、多様な疾患に対して予測できる情報技術の開発が求められてきた。

既存の分子について新たな治療可能疾患の予測を行う手法を提案

研究グループは、今回の新たな機械学習手法の開発において、既存の治療標的分子を新しい疾患に転用するターゲットリポジショニングを提案している。疾患の治療薬探索においては、既存の薬剤を本来想定していた疾患とは異なる別の疾患へ転用するドラッグリポジショニングという手法があり、今回開発した手法では、この概念を薬剤ではなく治療標的分子に適用したターゲットリポジショニングにより、既存の治療標的分子について新たな治療可能疾患の予測を行うという。既存の薬剤は既に安全性が十分に評価されており、効率的な創薬手法として期待できる。

各疾患病態メカニズムの類似性を考慮して予測精度を向上

今回、研究グループは、ヒト由来細胞において、治療標的分子を遺伝子ノックダウンまたは遺伝子過剰発現させた際の遺伝子発現パターン(4,345個の阻害標的候補分子、3,114個の活性化標的候補分子)と疾患特異的な遺伝子発現パターン(79疾患)の融合解析により、阻害標的分子と活性化標的分子を区別して予測する機械学習手法を開発した。各疾患に対して予測モデルを構築し、既知の治療標的分子と疾患の関係性を学習させた。既知の治療標的分子と疾患の関係データは非常に少なく、モデル構築における障害となっていたが、予測モデル間で疾患病態メカニズムの類似性を共有することで、従来法より治療標的分子の予測精度を最大30%向上させることに成功した。

次に、開発手法を用いて既存の治療標的分子に対して、新たな治療可能疾患の予測を行った。新規に予測された治療標的分子と疾患の関係性について検討したところ、文献調査や分子機能解析から予測の妥当性が示唆された。慢性肉芽種症の活性化標的分子であるIFNGは、乳がんやI型糖尿病、リュウマチ、急性骨髄性白血病、パーキンソン病に対して転用できる可能性が予測され、うち4疾患において近年の文献から妥当性を確認することができた。

疾患との関連が未知の分子に対しても治療可能性を予測、さまざまな疾患に対する応用に期待

さらに、既存の治療標的分子だけでなく、治療標的分子として未開発の生体分子に対しても治療可能性を予測できるか検証した。成人T細胞性白血病に対する阻害標的分子として予測されたTAF1Bについて分子機能解析を行なったところ、成人T細胞性白血病の原因であるヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)感染やカルシニューリン-NFATシグナル伝達経路などの生体反応との関連が示唆された。開発手法は既存の治療標的分子だけでなく疾患との関連が未知の生体分子に対しても治療可能性を予測できることが期待できるという。

今回、研究グループは、さまざまな疾患に対して新規の治療標的分子を予測するターゲットリポジショニングという新たな概念を提案した。開発手法は既存の治療標的分子だけでなく未開発の生体分子に対しても治療標的分子となり得る治療可能疾患を予測できるため、既存の治療標的分子の転用や新規の治療標的分子の創出により、さまざまな疾患に対する医薬品開発の促進が期待される。「今後は、有効な治療標的分子が明らかになっていないような新型コロナウイルス感染症や難治性疾患に対して開発手法を適用することで、新規の治療標的分子の創出につなげていく予定」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大