名古屋市内のマスクメーカーと共同開発した「気管支鏡検査用マスク」の効果は?
名古屋大学は7月4日、With/Postコロナでの新しい内視鏡検査スタイルを提案する新規医療デバイス「e-mask」の飛沫飛散リスク低減効果と、患者への安全性を実証したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科呼吸器内科学(石井誠教授)のe-mask開発実装研究チーム(同大医学部附属病院呼吸器内科の伊藤貴康救急助教、岡地祥太郎病院助教、呼吸器内科学・名古屋大学高等研究院(JST創発的研究支援事業1期生・B3ユニットフロンティア長)の佐藤和秀特任講師)らによるもの。研究成果は、「Respirology」に掲載されている。
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世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が持続しており、終息の目途は立っていない。医療現場では、無症候性患者の存在も報告されている。気管支鏡検査前にPCR検査「SARS-CoV-2核酸検出」を施行しても、偽陰性となることがあり、医療従事者への伝搬リスクがゼロになることはなく、常に感染防止策を講じる必要性がある。
気管支鏡は、肺がんをはじめとする呼吸器疾患の診断や治療に重要な検査だが、気道にカメラを挿入する特性上、咳嗽反射は避けられず、鎮咳薬投与下でも咳嗽反射は完全に抑制できず、飛沫発生あるいは飛沫発生した粒子が検査台や内視鏡装置等に付着し、接触感染が生じるリスクの高い処置だ。そのため、気管支鏡検査の際は接触・飛沫予防策(眼の防護具、長袖ガウン等)やN95マスクまたはそれと同等のマスクなどの予防策が推奨されている。
しかし、これらの予防策を行ってもエアロゾルの発生は完全には制御困難であり、空間に存在する人や機器などの環境を汚染すると考えられ、これは防護具の着脱の際や環境汚染による感染リスク上昇につながると考えられる。したがって、医療従事者のみならず検査を受けられる患者への感染リスク増加につながる可能性がある。そこで研究グループは、患者が装着して飛沫発生を防止する「気管支鏡検査用のマスク」を、名古屋市に本社を持つマスクメーカーとともに産学連携事業として共同開発した。
e-mask装着により飛沫抑制効果が1万倍以上あることを確認
今回、同マスクの飛沫防止効果を可視化するために、アクリルボックスを用いた可視化実験、さらに微粒子高感度可視化実験による評価を実施した。評価に用いた微粒子可視化システム(ViEST)では、浮遊する微粒子を専用光源と専用超高感度カメラによって可視化することが可能。被検者に咳をさせて、同マスクを着用(内視鏡や吸引チューブを通した状態)している時と、していない時を比較した。その結果、マスク装着により飛沫抑制効果が1万倍以上あることを確認。また、シミュレーション技術を用いた検討でも、発生粒子の暴露抑制につながることが判明した。
e-mask装着時の検査時間に大きな問題なし、安全性も確認
内視鏡操作者の操作性を検討するため、マネキンでe-maskを装着した場合と装着しない場合の検査時間を比較評価したが、特に大きな問題がないことを確認した。
COVID-19流行期でのe-maskの装着なしとの比較は感染対策上も伝播リスクがあることから、同院のヒストリカルコホートのデータを傾向スコアマッチングで「e-mask装着群」と「e-mask装着なし群」で安全性を比較検討した。その結果、e-mask装着群は、最大呼気二酸化炭素濃度(EtCO2)は有意に上昇することに留意が必要との結果だったが、検査後、検査前レベルまで戻り、安全性は担保されていることを確認したという。
検査・処置に伴う「飛沫飛散予防」のため、さらなる普及を目指す
研究グループは、同結果を呼吸器内視鏡学会や呼吸器学会等への提言、ガイドライン化に向けて発信していくことを検討しており、「簡便・安価・使い捨てのe-maskは実装販売により幅広く普及しつつあり、検査・処置に伴う飛沫飛散予防に広く役立つことが期待できるため、医療貢献につながると考えている。本研究結果によりさらなる普及を目指していく」と、述べている。