TRA vs DRA、RAO発生率をより抑えるのは?欧州/日本16施設で実施
テルモ株式会社は6月28日、心臓カテーテル治療において、近年普及し始めた遠位橈骨動脈穿刺法(Distal Radial Access: DRA)の有用性を検証する臨床試験「DISCO RADIAL」(DIStal vs COnventional RADIAL access trial)の結果を発表した。同試験は、欧州と日本の16施設で実施された世界初の多施設無作為比較試験。試験の結果は、欧州の心臓病学会「EuroPCR 2022」での発表に加え、「Journals of the American College of Cardiology (JACC)」に掲載されている。
心臓カテーテル治療において、患者の手首内側にある橈骨動脈を穿刺してカテーテルを挿入する方法(Transradial Access:TRA)は、欧州や米国の学会ガイドラインでも推奨されており、治療のスタンダードとなっている。他の穿刺部位である太ももや上腕に比べて、術後管理のしやすさや止血時間の短さから世界中の医療機関で行われている。一方で、術後に橈骨動脈が閉塞してしまう合併症(RAO)が発生し得ることが課題とされている。閉塞すると、後日患者が追加のカテーテル治療などが必要になった場合、他の血管からアクセスするなどの対応が求められる。DRAは、手の甲側にある親指付け根付近の血管からカテーテルを挿入する方法。新たなアクセス法として、RAOの発生頻度を減らせる可能性があると期待されている。
DISCO RADIAL試験は、TRA群とDRA群におけるRAOの発生率を主要評価項目に設定している。両群のほとんどの症例で、同社がTRA用に開発したシース「Glidesheath Slender」を使用した。TRA群では、止血時は橈骨動脈の血流を保ちながら圧迫圧を最小限に抑えるプロトコールを推奨し、DRA群では、止血プロトコールは施設ごとの対応で行われた。
TRA群とDRA群で有意差なし、術後止血プロトコールの重要性を示唆
TRA群657例と、DRA群650例を比較した結果、両群のRAO発生率はそれぞれ0.91%(=TRA)と0.31%(=DRA)といった結果で、有意差はなかった。両群とも橈骨動脈が閉塞する症例が極めて低かったことから、DRAはTRAに並んで有用であることを支持する結果となった。また、TRAにおいてはRAOを回避するためには適切な術後止血プロトコールが重要であることが示唆された。
アクセス成功率(Crossover rate)は(TRA vs DRA)3.5% vs 7.4%, p=0.002、スパズム発生率は2.7% vs 5.4%, p=0.0015、止血時間は180分 vs 153分, p<0.001であった。血管関連の合併症や穿刺部位からの出血などの項目を比較しても両群共に良好な成績を示し、現在の心臓カテーテル治療の標準手技であるTRAの有用性を改めて強調し、かつ、DRAがTRAの代替として活用できることも示した。
「TRAによる心臓カテーテル治療(TRI)が初めて行われて2022年で30周年を迎えた。これまで当社は、TRAで使用しやすい製品の開発や、トレーニング機会の提供、エビデンス構築の支援などで普及の一端を担ってきた。今後も、医療の進化と患者QOL向上のため多面的に貢献していく」と同社は述べている。
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・テルモ株式会社 ニュースリリース