統合失調症患者は、生活の中で「社会認知」をどのように認識しているのか?
東邦大学は7月1日、統合失調症患者における社会認知(相手の顔や声色から感情を読み取る能力や相手の意図を推測する能力など)についての認識度や実生活で抱えている主観的な困難感を、インターネット調査にて明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部精神神経医学講座 根本隆洋教授、北海道大学大学院医学研究院精神医学教室 橋本直樹准教授、東京大学大学院総合文化研究科ギフテッド創成寄付講座 池澤聰特任准教授、国立精神・神経医療研究センター病院 臨床研究・教育研修部門 情報管理解析部 大久保亮客員研究員らの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に掲載されている。
多くの統合失調症患者において社会生活における困難が広く認められており、これを改善することが統合失調症治療における重要な課題の一つとなっている。これまで、社会生活に影響を与える要因としてさまざまなものが報告されてきたが、近年、その有力な候補として対人関係の基礎となる能力である「社会認知」に注目が集まっている。
社会認知には、相手の顔や声色から感情を読み取る能力や、相手の意図を推測する能力などが含まれる。これまでに、社会認知の能力の程度を評価する方法や、社会認知の能力を改善させる方法が開発され、日本でもその方法の確立に向けた研究が進んでいる。しかし、統合失調症患者が実際の生活の中で、社会認知をどのように認識しているかについてはほとんど知られていない。そこで研究グループは今回、統合失調症患者における社会認知についての認識や、実生活で抱えている主観的な困難感を明らかにすることを目的として、調査を行った。
232人の統合失調症患者と494人の健常対照者を対象にインターネット調査を実施
研究グループは、232人の統合失調症患者と494人の健常対照者を対象に、インターネットによるアンケート調査を行った。調査にあたっては、社会認知に関する主観的な困難感を評価する方法として、ASCo(Self-Assessment of Social Cognition Impairments)およびOSCARS(Observable Social Cognition Rating Scale)というアンケートの日本語版を作成。また、「社会認知に関する認識尺度(KEA-SC:Survey questionnaire on Knowledge, Experience, and Awareness of Social Cognition)」というアンケートを新たに開発した。社会機能については、SFS(Social Functioning Scale)というアンケートを用いて評価をした。
社会認知で強い困難感認められるも、社会認知を知る患者23.0%、治療経験がある患者3.9%
その結果、統合失調症患者および健常対照者のいずれも、「社会認知」という言葉自体を知っている割合は25%未満だった(統合失調症患者23.0%、健常対照者24.5%)。また、これまでに社会認知について治療を受けたことがある割合は5%未満に留まった(統合失調症患者3.9%、健常対照者0.8%)。一方、「社会認知が社会生活と関連する」と回答した割合は、いずれも50%を超えていた(統合失調症患者64.8%、健常対照者51.2%)。
また、統合失調症患者は健常対照者に比べ、社会認知の主な4つの能力の全てにおいて強い困難感が認められ、「社会認知の困難感が強いほど、就学就労や対人関係などの社会生活における機能が低い」という関連が認められたという。ただし、これらはインターネット調査による結果であり、その解釈には注意が必要だとしている。
社会認知の改善が、統合失調症治療のアンメットメディカルニーズである可能性
今回の研究成果により、統合失調症患者が社会認知に関して強い主観的な困難感を持っており、それが社会生活と関連していると認識していることが明らかになった。しかし、社会認知という言葉自体や認識は広まっておらず、社会認知能力を測定したり治療を受けたりすることは、通常の医療現場では普及していないことが示唆された。これは、統合失調症治療におけるunmet medical needs(需要はあるがいまだ十分に提供されていない治療)であると考えられる。
「これまで開発されてきた社会認知に対する治療は、社会生活での困難を顕著に改善させるとまでは言えず、より一層効果的な治療法の開発が重要な課題であると同時に、それをどのように普及させていくかについても検討する必要があると考えられた」と、研究グループは述べている。
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・東邦大学 プレスリリース