自然免疫応答まで観察できるオルガノイドモデルは存在しなかった
国立成育医療研究センターは6月27日、腸管の免疫機能を有する高機能化した「ミニ腸」の開発に、世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同研究所再生医療センターの阿久津英憲部長、東京農業大学食品安全健康学科の岩槻健教授、弘前大学大学院医学研究科消化器外科学講座の袴田健一教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology」にオンライン掲載されている。
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体内の免疫系の細胞のうち、約70%が腸管に存在すると言われている。自然免疫細胞であるマクロファージは、さまざまなウイルスや細菌感染症に対する生体防御において非常に重要な役割をする一方、慢性炎症や自己免疫疾患などの病気にも深く関わっている。
最近、ヒトの腸管モデルとして試験管の中で幹細胞から作るミニチュアの臓器で3次元化組織(オルガノイド)の研究が世界中で活発に行われている。しかし、自然免疫応答まで観察できるオルガノイドモデルは、いまだ報告がなかった。
腸管免疫応答や炎症性疾患などの病態を再現できる革新的なバイオモデルを創生
ヒトiPS細胞由来のミニ腸は、吸収・分泌、蠕動様運動などのヒト腸管の機能を有する機能的な立体腸管だ。今回研究グループは、ミニ腸を作製する同一のiPS細胞から単球を作製し、ミニ腸内へ移植した後マクロファージへ分化させた。ミニ腸内で正着したマクロファージは、さまざまなサイトカインなどの生理活性物質を分泌し、大腸菌を貪食する機能性も有していることが示したという。
今回創生された「試験管内でヒト腸管の自然免疫応答も解析できる高機能化したミニ腸」は、生体内における腸管免疫応答や炎症性疾患などの病態を再現できる革新的なバイオモデルであり、創薬研究開発にも活用が期待される。
小児難治性腸疾患や好酸球性消化管疾患の病態解明・創薬研究に活用予定
今回の研究により、ミニ腸組織マクロファージが生体の小腸マクロファージと近似した特性を有していることが見出された。研究グループは今後、このミニ腸を小児難治性腸疾患の病態解明や創薬研究に応用していく予定だとしている。
炎症性腸疾患と同じく、腸の炎症が長く続く好酸球性消化管疾患(Eosinophilic Gastrointestinal Disorder: EGID)では、ある種の食物抗原に反応して炎症が起きることがわかってきている。今回の成果を活用し、生きた腸の中での免疫細胞の詳細な働きを試験管内で観察ができるようになったことにより、同疾患の診断・治療法の開発へ大きく貢献すると考えられる。また、新型コロナウイルスも含め、腸管内ウイルス感染症の研究や腸内細菌の研究などにも活用していく、と研究グループは述べている。
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