全身の筋肉量とも関連する口腔機能、体水分不均衡との関連性は不明
東京医科歯科大学は6月24日、体水分の不均衡が低舌圧、低握力と関連することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野の戸原玄教授と山口浩平助教の研究グループによるもの。研究成果は「Journal of Prosthodontic Research」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
口腔と全身の関連はすでに広く知られており、国民皆歯科検診の必要性も検討され始めた。舌圧や咀嚼能力など口腔機能の低下は「噛みづらい食品が増えた」「むせが気になる」などの症状であらわれ、オーラルフレイルとも呼ばれ、歯科医院にて口腔機能低下症の病名で機能維持、改善を図ることができる。以前の4年間に及ぶ縦断研究では、もともと口腔機能が低下していた対象者は死亡リスクが2倍以上になることが報告されており、さらに口腔機能が全身の筋肉量などの体組成と関連することもわかっているという。
全身のおよそ60%は水分で構成されており、筋肉も多くの水分を含んでいる。体水分は細胞外水分と細胞内水分に分けられ、健康な状態ではその均衡が保たれている。体水分の不均衡は細胞レベルの機能低下を示し、筋量よりも早期に身体機能や筋力の低下を示す指標として期待されているが、口腔機能との関連は一切不明だった。研究グループは、体水分均衡と口腔機能との関連が明らかになれば、口腔機能低下症の診断過程で、身体の僅かな変化も予測でき、歯科医療がさらに健康寿命増進に寄与し得ると考えた。また、臨床現場において全身の浮腫が顕著な患者が舌も浮腫んでいることを経験していたことから、今回の研究では舌に焦点を当て、舌の筋力や筋肉量と体水分均衡の関連を明らかにすることを目的とした。
20~87歳の男女171人、体水分不均衡や握力、舌圧などを調査
研究の対象者は、20~87歳の男女171人で、年齢、性別、BMI(体格指数)、握力、歩行速度、舌圧、舌断面積、SMI(四肢骨格筋量指数)、体水分均衡(細胞外水分比:細胞外水分量/体水分量)、噛み合わせ状態を調査項目とした。舌圧は口腔機能低下症の診断基準にも含まれている代表的な口腔機能の一つで、専用の計測器で測定した。舌断面積は、超音波診断装置を用いて計測し、細胞外水分比やSMIは、生体インピーダンス法と呼ばれる非侵襲で簡易な手法で計測した。体水分均衡は、細胞外水分比で表され、疾患や低栄養、炎症などさまざまな要因で均衡が崩れ、細胞外水分量が増加したり、細胞内水分量が減少することで細胞外水分比が増加し、体水分不均衡が生じる。
研究の結果、まず男女別に65歳未満の成人群と65歳以上の高齢者群で細胞外水分比を比較すると、男女いずれも高齢者群で有意に高いこと、また細胞外水分比は舌圧、握力と有意な相関関係にあり、歩行速度との相関関係はないことがわかった。次に、多変量解析により舌圧、舌断面積、握力、歩行速度それぞれと細胞外水分量比の関連を統計的に調べた結果、年齢や性別、噛み合わせ状態などを調整しても、細胞外水分比は舌圧、握力と負の関連を示した。つまり、細胞外水分量比が高ければ高いほど、舌圧と握力は低くなり、体水分不均衡と低舌圧、低握力には関連があることが示された。
また、舌と上腕は筋繊維の構成が異なり、舌は廃用で、上腕は加齢で筋萎縮が起こりやすい。筋萎縮に伴って細胞外スペースと細胞外水分は増加すると報告されており、細胞外水分比と握力の関連は加齢による筋萎縮が一因と考えられるが、舌圧との関連は加齢による生理的な変化だけでは説明が難しく、「話さない」「硬いものを食べない」といった舌の活動量の低下など多因子が複雑に関連しあった結果と予想されるという。
改めて口腔と身体を総合的に捉える重要性が示された
今回の研究では、体水分不均衡と低舌圧、低握力の関連を初めて明らかにしたことにより、口腔、身体がそれぞれ独立したものではなく総合的に捉える重要性を改めて示した。口腔機能低下症の診断過程で舌圧低下を認めた患者は、体水分不均衡の疑いがあるので注意が必要だという。「歯科医療従事者は低舌圧の患者の体組成の変化など全身状態にまで配慮することで、より一層の医科歯科連携、健康寿命延伸に貢献し得るのだと意識することが重要だ」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・東京医科歯科大学 プレスリリース