COVID-19蔓延前後で脳卒中診療実績の変化を調査
国立循環器病研究センターは6月24日、2019・2020年度に国内542の一次脳卒中センターにアンケート調査を行い、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延前後の脳卒中診療実績の変化を調べた結果を発表した。この研究は、同研究センターの豊田一則副院長が分担研究者を務める厚生労働科学研究費補助金「脳卒中の急性期診療提供体制の変革に係る実態把握及び有効性等の検証のための研究」(研究代表者:神戸市立医療センター中央市民病院脳血管治療研究部長の坂井信幸氏)の研究グループによるもの。研究成果は、「Neurologia Medico-Chirurgica」に電子掲載されている。
画像はリリースより
(詳細は▼関連リンクからご確認ください)
COVID‑19は依然として世界中で蔓延しており、国内では2022年4月末までに800万人近くの患者がCOVID-19に感染し、未だ終息の兆しは見えていない。COVID-19の蔓延は、世界中のあらゆる地域で脳卒中診療体制や診療実績に影響を与えており、国内での動向を全国規模で検討する必要が強く求められた。厚労科研坂井班は日本脳卒中学会の協力を受けて、同学会が認定する一次脳卒中センターの入院診療実績に関する調査を行った。
今回、全国の一次脳卒中センター974施設のうち6割に及ぶ576施設が調査に回答。このうち情報が充足していた542施設を対象にし、脳卒中及び各脳卒中病型の入院患者数を、COVID-19蔓延前(2019年1月〜12月)とCOVID-19蔓延下(2020年1月〜12月)とで比較した。
脳出血3.9%、くも膜下出血4.6%減少
その結果、全脳卒中入院患者数は、2019年の18万2,660人から2020年には17万8,083人と2.5%(95%信頼区間[CI]:2.4%–2.6%)減少。病型毎に見ると、脳梗塞で1.9%(95%CI:1.9%–2.0%)、脳出血で3.9%(95%CI:3.7%–4.1%)、くも膜下出血で4.6%(95%CI:4.2%–5.0%)減少し、特に出血性脳卒中である2病型での減少傾向が目立った。
感染拡大期・感染拡大都道府県、入院患者数減が顕著
2020年のうち、特に感染者数が増加傾向にあった3~5月、7~8月、11~12月の感染拡大期7か月は2019年の同期間に比べて脳卒中入院患者数が5.6%(95%CI:5.5%-5.7%)と大幅に減少し、逆に残りの5か月間は前年に比べて2.0%増加した。また、人口100万人あたりの累積感染者数が多い上位5都道府県(東京、沖縄、大阪、北海道、神奈川)では、2019年に比べて2020年に脳卒中入院患者数が4.7%減少していた。
COVID-19蔓延への一般市民の行動変容が脳卒中入院患者数を減少させた可能性
一般的に感染症を契機に脳卒中は発症し易くなり、とくにCOVID-19は脳梗塞を含む全身の血栓症を起こしやすくすることが知られている。その一方で脳卒中による入院患者数の減少が、世界各地から報告されている。研究グループの研究成果も同様で、特に感染者数が増加した月や都道府県で、減少していた。この原因として、軽症の脳卒中患者は感染リスクを懸念して病院受診を避ける傾向、いわゆる「受診控え」を行った可能性がある。また、感染対策による感染症の減少、社会生活の抑制による飲酒機会の減少、規則正しい生活、安静などにより、脳卒中発症者数そのものが減少した可能性もある。このように、COVID-19の本来の病態生理よりも、COVID-19蔓延に対する一般市民の行動変容が、脳卒中入院患者数を減少させた可能性が考えられた。
さらに、国内の大規模脳卒中センターの多くは地域の中核総合病院であることから、COVID-19患者に病床を割くことで相対的に脳卒中患者の受け入れ困難例が増えた、あるいは病院内のクラスターの発生によって入院不能な状態になったことが、入院数減少の一因として挙げられる。2021年には感染者数の激増による病床逼迫が問題となり、2022年初頭には医療者の家庭内感染あるいは家庭内濃厚接触指定により多くの医療者が自宅療養せざるを得なくなり、脳卒中の急性期診療を行う病院とリハビリテーション病院の両方で人的資源が枯渇して十分な病床運用ができず、結果的に脳卒中患者の受け入れ先が見つからない状況も報告されている。
以上のように、COVID-19による脳卒中入院数の減少の原因は多様であり、同研究のみでは解明できない部分もあるが、今後包括的に対策を図る必要があると考えられる同研究は、合計で約36万人を対象とした世界的にも極めて大規模な集団における調査で、ウィズコロナの時代における今後の国内脳卒中医療政策を考える上でも重要だ、と研究グループは述べている。
▼関連リンク
・国立循環器病研究センター プレスリリース