異なる2つの疾患群の共通点や違いを明らかにするため大規模GWASを実施
日本医療研究開発機構は6月27日、バイオバンク・ジャパン(日本)、UKバイオバンク(英国)などから収集された計84万人のヒトゲノム情報の解析を行い、自己免疫疾患とアレルギー疾患に共通した遺伝的特徴を明らかにしたと発表した。この研究は、大阪大学大学院医学系研究科の大学院生の白井雄也氏(博士後期課程)、岡田随象教授(遺伝統計学/理化学研究所生命医科学研究センター システム遺伝学チーム チームリーダー)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Annals of the Rheumatic Diseases」に掲載されている。
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自己免疫疾患とアレルギー疾患は異なる疾患群と考えられている一方で、先行研究において、共通した遺伝的要因が部分的に存在することが知られていた。さらに、疫学研究の結果からはアレルギー疾患の存在により自己免疫疾患の発症リスクが増加することが報告されている。そのため、2つの疾患群で共通した病態の存在が示唆されていたが、これまで自己免疫疾患、アレルギー疾患を統合した大規模なゲノム研究は報告されていなかった。今回、研究グループは、日本人集団と欧米人集団のバイオバンクリソースを活用して自己免疫疾患とアレルギー疾患を対象とした大規模なGWASを行うことで、多様な集団間を通して2つの疾患群の共通点や違いを明らかにすることを試みた。
疾患リスク、自己免疫はHLA領域に集中、アレルギーはサイトカイン領域に偏って散在
研究グループは、バイオバンク・ジャパン(日本)、UKバイオバンク(英国)などにより収集された計84万人のヒトゲノム情報の解析を実施した。解析対象には、両バイオバンクで共通して登録されていた自己免疫疾患(関節リウマチ、バセドウ病、1型糖尿病)とアレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症)が含まれ、追認解析では全身性エリテマトーデスや乾癬も対象とした。
自己免疫疾患とアレルギー疾患はゲノム情報からも2群に分類することができ、その違いは、「自己免疫疾患においては疾患リスクがHLA遺伝子領域に集中していること」「アレルギー疾患においては疾患リスクがサイトカイン遺伝子領域に偏ってゲノム上に散在していること」に起因していた。
G3BP1領域、POU2AF1領域など、両疾患に共通の多型を4か所新規同定
一方、部分的には共通の疾患リスクを示す遺伝子領域も存在しており、同研究では4か所の遺伝子多型が新規に同定された。その中には、東アジア人集団において特異的に観測されるG3BP1領域の遺伝子多型や、多様な集団間で共通した効果を示すPOU2AF1領域の遺伝子多型などがあった。G3BP1はⅠ型インターフェロン発現に関わる遺伝子であり、POU2AF1はB細胞において抗体産生に関わる遺伝子だ。これらの領域の遺伝子多型はそれぞれの遺伝子発現量を減少させることで疾患リスクを低下させることが示唆された。
また、同研究では自己免疫疾患との統合解析を通して、アレルギー疾患の遺伝的リスクに自然免疫に関わる遺伝子や免疫細胞が関連していることも明らかになった。
新規創薬への寄与に期待
今回の研究成果について研究グループは、「免疫システムの異常とヒトゲノムの関連の解明が加速することが期待される。本研究で同定した疾患間で共通する遺伝子は免疫系を制御する鍵遺伝子として、マルチターゲットの創薬標的となる可能性がある」と、述べている。
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